第51χ 漆黒の翼のママは教育ママA




通されたのは海藤くんの部屋。
これが高校生の部屋なのだろうか。下手なワンルームより広い部屋で、思わず部屋の真ん中でブレイクダンスを始める燃堂くん。おばさんの顔が引きつっている。燃堂くんは規格外の人だから仕方ないね。

おばさんがお茶の準備を始めると下に降りて行ってしまった。その間、私達はソファーに腰掛けてぼんやりと部屋の様子を眺める。失礼だとはわかっているけど、つい人の家ってじっと見てしまう。この気持ちわかってもらえたら嬉しい。
そんな中で燃堂くんは宝探しでもするように部屋を漁り出す始末。エロ本探しは男子の宿命なのだろうか。

「お、このファイルの中が怪しいぜー。」

ベッドの下から取り出した黒いファイルの中を開けば、落ちて来たのは数冊のノート。表紙から見て他人が安易に見てはいけないものだと瞬時に察知した
。あれはいわゆる、黒歴史ノートだ。私も勿論、そのような類のものは持っている。なんたって妄想力逞しい物書きだから。
海藤くんも動揺のあまり顔を真っ赤にしている。普段から一般人であれば顔を真っ赤にするような言動をしているのに、このノートはその彼が真っ赤になるくらい特別なことが書かれているようだ。隙を見て読ませてもらうことにしよう。

お茶を持っておばさんが入ってきた。そしてそのまま雑談...もとい、おばさんよる尋問タイムが始まった。

「瞬くんと仲良くしてくれてありがとう。これからも仲良くしてあげてね。それで三人とも...志望大学はどちら?」

あぁ、薄々は思っていたけど彼女は教育ママだったようだ。
教育ママとは、子の将来を期待して学業・塾や習い事を熱心に受けさせる母親を指すのだが、まさか海藤くんのお母さんがそれだったなんて。よくよく浅い記憶を掘り出してみれば海藤くんは塾に通っていたようだし、母親が厳しい人だから中二病を拗らせてしまったと考えればとても納得がいくような気がする。

私も楠雄くんも彼女の言葉に首を振る。正直将来のことなんてまったく考えてはいない。いざという時に選択肢が広がるようには常日頃から努力はしてきているけれども。燃堂くんにいたっては志望大学の意味すら分かっていないようだ。

「一体将来の事をどう考えているのかしら...?」

どうやら教育ママの逆鱗に触れてしまったようだ。そのあと長々と将来についてお説教をされてしまった。おばさんの意見はもっともで、きっと将来私達が身に染みて感じる事なのだろうということはわかる。けれど、それはその時になって体感してみないとわからないことだし、一概におばさんがいうことが正論であるようには私には思えない。
おばさんは我慢の限界のようで、海藤くんを連れて出て行ってしまった。おやつの代わりにやれと渡されたのは何冊もの問題集。面倒くさいけれどおやつのためにはやるしかないらしい。

何が悲しくて人の家に遊びに行ってまで勉強しなくてはならないのだろうか。机の上に山積みにされた問題集をパラパラとめくる。どれも赤子の手をひねるより簡単で、この分量ならさほど時間はかからないだろう。燃堂くんはアレとして楠雄くんもいるのだから。2人で分担をして問題を淡々と解いてゆく。
日頃から、楠雄くんは私達が思う以上に何でもこなせるんじゃないかと思う時がある。もしそうだとしたら、彼がなぜあえてそんな手抜きをするのか私には皆目見当もつかない。けれど、彼がそれで満足しているというなら私は口出しすることはない。それも含めて楠雄くんだと思うから。

あっという間に問題集は片付いてしまった。まだ海藤くんが戻ってこないようだし、放置されたコーヒーゼリーを2人に配って食べ始める。ん、これはこれで良いコーヒーゼリーだと思う。けれど、魔美には敵わないかな。それにしてもコーヒーゼリーを食べる楠雄くんは幸せそうな顔をしている。今日の成果はこれかな。

やっと戻って来たと思えばおばさんだった。まだプリプリ怒っているようで、将来の自分はあんなにはなりたくないなと思う。

「ちょっと待ってよママ...さっきの話だけどやっぱり...」

それから数分してから海藤くんが戻って来た。一方で私達はなぜかおばさんからもてなしを受けていた。よほど勉強できることが評価を上げたらしい。何ともわかりやすいことか。

「あら、瞬くん!ママが勘違いしていたわ。とても良い友達を持ったのね。こんな出来るなら考える必要もないわよね。」
「うん...まぁ特に彼女は...平凡さんは今回のテスト全教科満点だったから。」

なんて事を言うんだ海藤くん!教育ママの目が更にキラキラして私に視線を向けてくる。海藤くんもなぜか誇らしげな顔をしている。君達のために日々勉強しているわけじゃないのだけど...これからもこの4人で居られるなら別に良いか。
私にとって、この4人でいることは何にも代え難いとても大切な時間なのだから。





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