第23χ 輝け青春、体育祭!(中編)@




楠雄くんが倒れた。

頭が真っ白になって、どうしていいかわからなくなって、私はその場で固まってしまった。固まったと言うより動けなかったと言う方が正しいと思う。
周りで彼を心配しているみんなの声が遠く感じる。耳に届くのはバクバクと跳ねる自身の心音だけ。

「意識が戻ったみたいだぞ!!」

その一言にハッと意識を戻せば、丁度楠雄くんも目覚めたらしく身体起こしていた。体調悪そうにもしていないし、問題はないみたいだ。
ほんの一瞬だったけれどそれがとてつもなく長い時間のような気がして、自然と目頭が熱くなって目尻に涙が溜まる。
これは悲しいわけじゃない。彼が無事で嬉しい涙。

「...よかった、っ」

小さく呟いた言葉。これが私のできる精一杯のこと。いつの間にか胸の前に強く握っていた手が赤くなっていた。何が起こったのかはわからないけれど、とにかく楠雄くんが無事で本当に安心した。

午前の種目が一通り消化されて、休憩に入る。
応援しにきた家族の元に行く人や、友人達と和やかに話す人、各々昼休みを過ごすために散らばって行くのが見える。

私は勿論、楠雄くんを探す。
彼も家族とお昼を摂るのだろうと楠雄くんのおばさんとおじさんのところに行ってみたけど、彼はいなかった。
息子をよそに、2人は作ったお弁当を食べさせあっている。相変わらずの熱々っぷりは羨ましく見えてしまう。いや、息子さんさっき倒れたんですけど!
それを言っても仕方がない。おじさんとおばさんが心配してないということはあのようなことは日常茶飯事なのだろうか。
とりあえず邪魔をしないように静かに離れれば、引き続き彼を探す。

「やっと、見つけた。」

楠雄くんは校舎裏で1人でお弁当を食べていた。私が来るとお弁当を食べるのをやめてしまった。やっぱりまだ体調が良くないのだろうか。あまり量も減ってなかった気がする。

「さっき倒れたけど...大丈夫?辛いなら早退した方がいいと思うけど。」

彼と人一人分隙間を空けて座って声をかければ、コクリと頷く彼。
今日はもう話せないと思うと少し寂しいけれど、体調が優れないなら仕方ない。今日はゆっくり休んでほしい。また元気な姿で会いたいし。

遠くから騒がしい声が聞こえたと思えば、楠雄くんを探していたのかクラスのみんなも集まって、彼のことを心配している。やっぱり彼はみんなに愛されているなと感じる。

彼の代わりに早退する旨をみんなに伝える。みんなもそれに賛同してくれたようで任せとけとちらほら声が聞こえてきた。

「みんなー!斉木君の分も頑張るぞォー!」

...灰呂くん、それは逆に帰りにくいんじゃないのかな。楠雄くんもきっと同じことを思っていると思う。顔を見ればなんとなくわかる。このクラスに確実に空気が読める人はいないのだろうか。





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