第16χ 夏休みデビューとその疑惑A




燃堂くんに気付かれないように、足音をつけながら後をつける。尾行なんてしたことがなくて、どうしていいかわからないため、私は楠雄くんと海藤くんの後ろからついて行く。

渋々ついて来たのだけれど、尾行のバレるかバレないかの駆け引きに存外ハラハラとして楽しんでいる自分がいる。いけない、しっかりしなければ!
一方、海藤くんは尾行を楽しんでいるみたいで学校で会った時の服装とは異なり、ハンチングと黒のジャケットに着替えていてノリノリだ。

燃堂くんが道を曲がる。
いつの間にか海藤くんの服がまた変わっている。今度はジャージにニット帽、丸い縁のサングラスだ。正直、尾行向きな服装とは思えない。彼といたら一緒に変質者と思われないだろうか。尾行よりそっちの方にハラハラして来てしまった...何か起きる前に通報でもしておこうかな。

そうこうしている間に燃堂くんは花屋に立ち寄ったりケーキ屋に立ち寄って次々に物を買っている。
一体何をするつもりなのだろうか。その行く途中で立ち止まってはニヤリと笑みを浮かべたりしている。燃堂くんの視線の先には、楽しげに歩いているお父さんと女の子。
海藤くんと楠雄くんは幼女を狙っているだとか、そういう趣味なんじゃないか、買っていった花とケーキは幼女を釣るためのエサだとか、どんどん良からぬ妄想を膨らましている。友達にそんなこと思われているなんて燃堂くんは考えもしないだろう。段々燃堂くんが不憫に思えてくる。...友達はちゃんと選ぶべきだ。これは友達である私からの助言だよ。本人には聞こえてないだろうけど。

「見損なったぞ燃堂!!かよわい幼女に手を出すなんて!!」
「イテッ!イテェよ!なんだ!!」

とうとう耐えきれなくなったのか海藤くんが燃堂くん目掛けて飛び出していってしまった。更には燃堂くんをポカポカと叩いている。...微笑ましい光景に頬がうっかり緩んでしまった。おっと、いけない。

燃堂くんに話を聞いてみると、どうやら今日がお父さんの命日で、買ったものはお供え物らしい。お供え物にひまわりとケーキというのは中々斬新だと思う。燃堂くんらしいと言えばらしいけれど。

無事に燃堂くんロリータ・コンプレックス疑惑も晴れて、みんなで帰ることになった。帰り際に私もせっかく来たのだからと、手を合わせておじさんに挨拶を済ませる。
さて帰ろうとみんなの後を追おうとしたところ、楠雄くんがじっと墓石を眺めて固まっている。墓石と言うよりかは墓石の上を視線が向いているような気がする。

「楠雄くん、そろそろ帰る...けど、どうかしたの?」

恐る恐る声をかけてみると、ハッとした表情を浮かべて何もないと首を振ってみせる彼。何もないのならいいけれど。もし、幽霊など見えていたとしたら...それは考えないでおこう。幽霊は信じていないけれど、得意なものでもないからだ。

今日は燃堂くんの意外な一面を見ることができた。人は得意ではないけれど、友達に対する小さな発見をするのは中々悪くないと思えた。これも夏休み故の変化だろうか。





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