第9χ LOVE FANTASY(事件編)A




今日は土曜日。
学校もなく僕、斉木楠雄は家でぼんやりとテレビを眺めている。昼間に面白い番組がやっているかと問われれば格段目の引くものはない。ただ僕の知らない情報が、誰かの心の声ではないところからリアルタイムで入ってくるのはとても新鮮で、何もなくとも見てしまう。

インドア派かアウトドア派と聞かれれば、僕は間違いなくインドア派だと主張するだろう。何故なら外に出れば面倒ごとに巻き込まれる可能性が格段に上がるからだ。だから、用がない限り外出を控えるようにしている。

知っての通り、僕は超能力を持っているからたとえ面倒ごとに巻き込まれなくと、一度耳に届いてしまったレスキューサインを聞いてしまったら何もしないわけにもいかなくなる。これは僕の気分によるところなのだが。
僕はこの能力を望んではいない。誰かに譲渡できるなら喜んで差し出したいくらいだ。

さて...テレビ番組も退屈になってきた。
ベッドに転がって読みかけの小説を手に取った矢先、外から女性の甲高い悲鳴が聞こえてきた。
この声の主に僕は聞き覚えがある。しかも、その悲鳴は大きく、方向から言えばわりと近く...僕の家の向かい側といったところだろうか。

まったく...どうして休日に限って面倒なことが起こるのだろうか。悲鳴を聞いてしまったからには、先程述べたようにスルーするわけにはいかない。
幸い、向かいの家は同じクラスメイトであり、設定上では恋人となっている平凡さんの家だ。
今日は確か平凡さんの両親は出掛けているはず。出かける際に何かあったらよろしくとわざわざ母さんに報告してきたからな。
理由はわからないが僕の両親と平凡さんの両親は親しい間柄のようだ。だから、僕が無礼にも勝手に上がり込んでも何も問題ない。

瞬間移動で平凡さんの玄関へ移動する。
瞬間移動でして問題はないかって?靴を履くのは面倒だったんだ。
それに悲鳴の主は平凡ではない。誰か訪ねてきているのだろう。そんな相手に僕が超能力者と知られては面倒になる。よって、玄関に瞬間移動したわけだ。僕は悲鳴の聞こえた二階へ足を運んだ。

平凡さんの部屋の目の前には悲鳴の主、同じくクラスメイトの夢原さんが腰を抜かして震えている。どうやら中で何かが起きているらしい。
そっと部屋を覗く。部屋の中で平凡さんが倒れていて、その手首から流れる真っ赤な血が床を濡らしていた。

あたりを散らかさないよう慎重に部屋の中に入り、様子を窺う。
血の出所はやはり腕だ。手首の下から肘のあたりまでかなり大きく切り裂かれている...なんとも痛々しい。凶器は近くに落ちているサバイバルナイフでほぼ間違いない。血が付着している。
もう片方の怪我のない腕に触れてそっと脈を取ってみる。微かだが指先に反応を感じる。
夢原さんに警察と救急車を呼ぶように手配する。突然の命令に戸惑った様子であったが、電話を探しに下に降りて行ってくれた。

その間に僕は応急処置を施す。
かなり深いが大事な血管は奇跡的にも切られてきないようだ。腕の付け根を圧迫し、止血を試みる。傷口は超能力で出してきたガーゼを押し当ててやる。溢れ出ていた血は止まった。これで救急車が来るまで保つだろう。





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