第8χ 夢は届かないくらいが丁度いい@




私は今、寄り道のために駅前に来ている。
なぜならば、好きな作家さんの新刊が発売されたからだ。気に入ったものはすぐにでも手に入れたい性分なものだから学校の寄り道とはいえ、遠まわりになる駅前へわざわざ脚を伸ばしたのだ。
もっと書店が増えてほしいものだけれど、住宅街に本屋を開いて儲かるはずはない。呪うべきは書店が近くにないことではなく、自身の家が書店から遠いことだ。

あと直線で数十メートル歩いた先に目的の書店があるわけだが、それまでの道のりには人の流れが縦横無尽に出来ていて簡単にはたどり着けそうもない。普段から人混みに紛れることのない生活をしているから、この雰囲気を見るだけで人に酔ってしまいそうになる。
しかし、欲しいものがこの人の海を超えた先にある。うまく流れを読みつつ、一歩ずつ流されながらも前進して行く。

駅前の中心に差しかかろうとしたところ、コツンと何かが靴の爪先当たった感触がし、ふと見下ろせば一枚のCDが落ちている。タイトルは魂の叫び。
ジャケットにはタイトルと、そのCDの歌手であろう人間がシャウトしている様が載せられている。正直、人気の出るような曲は入っていないだろうということはすぐにわかった。

そのCDが売れるかどうかはともかく、落とし主を探すためにあたりを見回す。

「千円」
「え..,何がです、ひっ!?」

強面の男が手を出したままじっと見つめてくる。男の顔には少し笑みを含んでいるようにも見える。恐らく金を出せということなのだろう。鞄の肩掛け部分を強く掴んで身を強張らせながら固まってしまう。

「いって!誰だよ、石投げやがったのは...って、平凡じゃねーか。どした?」
「...ね、燃堂くん?びっくりした...。」

突然飛んで来た石が男...燃堂くんの頭に当たった。その声にハッとして顔を見れば見知ったクラスメイトの姿があった。強面と自身の恐怖が別人に見えさせたのだろう。思い込みとは恐ろしい。

燃堂くんは石が当たった頭をさすりながら私を見下ろしている。ちらりと石が飛んで来た方を見れば、楠雄くんがつまらなそうに立っていた。...楠雄くんが助けてくれた?
更に視線を横にずらすと楠雄くんの隣には謎の男の人がいる。...なぜだろうか、既視感かある。思い出したように手にあるCDと顔を見比べると合点がいった。この売れさそうなCDの歌手だ。

そのあと燃堂くんがその男性について、一千万円で自殺と説明してくれたけどよくわからなかった。自分の中で情報を補完して解釈してみるに、魂のおじさんはミュージシャンで、売れないCDのせいで一千万円借金を負って自殺しようとしていたところ2人に声でもかけられたのだろう。

ようやく納得がいくと、私も彼らの手伝いに協力することにした。





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