第50χ オルファナスストーリー(後編)@




目醒めろ、私のオーメント!

2
〜覚醒の魔術師〜

ようやくたどり着いた王国。
地図ではそこまで距離がないように見えるが、歩いてみたら3日ほど費やすことになってしまった。勿論、その途中に村なんてなかったし夜は野宿を強いられた。

野宿は実に大変だった。
インドア派である私はそもそも外で夜を明かすなんてしたことなかったものだから、火の起こし方からわからず1日目は火を起こすだけで夜が明けそうになっていたりもした。
ベッドもあるわけないので、地面にそのままごろ寝になる。おかげで起きたら身体は痛いし、夜の寒さで中々眠れない日もあった。
それに加えて、野宿や移動していた時にネクロソフィアに襲われることも度々あって、ゲームの中の旅人が今までどれだけ苦労していたのかを身に染みて感じられた。私は二度とこんな旅があったら参加しないことを誓う。

それでもたった1つだけいいことがあった。2日目の夜、あの日はかなり冷え込んで焚き火ではどうしても身体を温めることができず震えていたら、楠雄くんが隣に来て身を寄せてくれた。大きなボロ布で2人を包んで冷気を遮断すればみるみる身体が温まっていく。楠雄くんから伝わる体温にドキドキと高鳴る心臓のおかげで精神的には大変だったけれどこの日の野宿だけは安眠できたのをよく覚えている。

そんなこんなでようやくたどり着いた王国。
城下町は人々で賑わいを見せていて、野宿で疲弊した心が元気を取り戻していくような気がする。城下町までくれば、宿はあるし野宿はしなくて良くなる。幸い、ネクロソフィアとの連戦もあって資金的には困ることはない。私は楠雄くんに早速宿へ行こうと促すように視線を向ける。やれやれと苦笑いを浮かべるも、私の意見を採用して宿に向かうこととなった。

「やっと...安心して寝れる。」

宿に着くと私は早速シャワーを浴びた。3日間野宿していた時には川で顔を洗う程度しかできなくて、気持ち悪くて仕方なかった。ホカホカになった身体でベッドにダイブすれば、その柔らかなマットが私の身体を受け止めてくれた。溜まっていた疲れがどっと出たのか、私はそのまま深い眠りに落ちた。

翌日の目覚めは最高だった。溜まった疲れが嘘のように取れて身体が軽い。軽やかに身支度を済ませて部屋を出れば楠雄くんと合流する。楠雄くんはいつもの感じで私の前を歩いていく。
そう言えば、野宿していた時も顔色ひとつ変えることがなかったような気がする。私と身を寄せた夜も。動揺したり不安そうな顔しないのは安心に感じるけれど...あの時ばかりはかなり複雑だった。

外に出ればやはり賑やかな風景が広がっていた。私は楠雄くんの後ろを何も言わずについて行く。昨日は私のワガママで宿に直行してしまったから、今度は楠雄くんに従う番。
彼が向かった先は道具屋などで、野宿ですっかり空になったものを補充していく。確かにゲームにおいても買い物は体力回復の次に重要だ。私も習って装備を整えていった。

途中、楠雄くんは露店に立ち寄ると真剣に何かを選び始める。露天に並べられているのはアクセサリー。確かにアクセサリーは装備としては物によっては強力な補助になるが...見た限り普通の装飾品に見える。
その中で楠雄くんが選んだブレスレットだった。豪華とも言えない物だが、ワンポイントで1つだけ小さな宝石がつけられている。それを購入すると楠雄くんは私に差し出してくれた。キョトンとしながらブレスレットをつけてみると楠雄くんの顔に少しだけ笑みが浮かんだような気がする。これは絶対に大切にしよう。

「来、来たぞ...本格的に攻めて来た!」

装備を一通り整えた頃、人々が顔を真っ青にして慌てふためきだす。話を聞いているとこの王国にもいよいよネクロソフィアが攻めて来たらしい。それも多くの仲間を引き連れて。
私は楠雄くんと視線を合わせて頷くと、城門に向かった。





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