第49χ 猫社会はつらいよ@




私は悩んでいた。
悩みの原因は猫だ。いきなり現れたと思えば、毎日のように早朝から斉木家の庭でニャーニャーと鳴いている。そのため鳴き声が迷惑だと町内から苦情が何件も来ているから、何とか猫を追い払いたいのだがどうしたらいいのかと、楠雄くんのお母さんから私の母経由で相談を受けたことが始まりで、現在その対策を考えている。
楠雄くんのお母さんは猫アレルギーで外に出る度、猫の毛が風に舞って肌を刺激して辛いらしいので早く解決はしてあげたいのだが。

その原因の猫は、いけしゃあしゃあといつものように庭で毛繕いするくらい寛いでいる。太々しい顔して生意気な。

「保健所の人呼んだら良いんじゃないんですかね。」
「仁子ちゃん...中々の鬼だね。けど、ママも辛そうだし...けどアンプがっ。」

頭を抱えて呻き声のような声をあげているのは楠雄くんのお父さん。ちゃっかりアンプなんて名前つけて可愛がっているから出ていかないのではなかろうか。
そもそもこの猫は野良ではないだろう。毛の艶はいいし、首にバンダナまで巻いているのだ。ふっくらした体型から人間に甘やかされて生きて来たのだろうということが容易に想像できる。
確かに保健所という選択は猫にとっては望まない展開だけれど、近所のこともある。それに毎日鳴いているせいで私の安息の時間までなくなってしまっているときた。いくらおじさんが泣き付こうと、1日でも早く追っ払ってしまいたい。

ふとアンプを見下ろせば、私の目を見てニャーニャーと鳴き返してくる。猫語なのだから私が理解できるはずがないし、そもそも猫に興味がないのだからどう対処していいのか余計に困ってしまう。

「どうしたんでしゅか、アンプー。遊んでほしいのかにゃー?」

猫好きならこんなリアクションになるのだろうが...ついついおじさんを養豚場の豚を見る目で見てしまった。おじさんもこうなってしまっているし、アンプの処理に関して解決は難しいだろう。
それにしても家のことに楠雄くんが噛んでこないのは珍しい。今日はどこかに出掛けているのだろうか。

先ほどまで、しつこく鳴き喚いていたアンプが鳴きやんでトコトコと家の門まで歩いていく。私も何だろうと様子を見てみれば、目の前を小綺麗な雌猫が歩いているのが見えた。
あの猫は知っている。近所のお金持ちが飼う猫で名前は確かプシーと呼んでいた気がする。猫の中でも静かで、飼い主に似て育ちの良さが窺える。
それに比べてアンプと言ったら...ずっとプシーちゃんを見つめて尻尾を揺らしている。これはもしかして、発情期と言うものだろうか。

「...おじさん、まずはアンプの去勢からしましょう。」
「仁子ちゃんっ!?」

そんなこんなでグダグダとおじさんと猫の相手をしていると、どこからともなく現れた猫がちょこんと私の前に座っていた。
真っ白で、少し小柄なその猫はまだ大人の猫ではないことが窺える。首に珍しいデザインの首輪をしているけれどどこかの飼い猫だろうか。

「わぁー、カワうぃーねぇー。君はどこから来たんでしゅかー?」

おじさんは本当に猫が好きなようで再び猫撫で声で白い猫との会話を試みている。しかし、すぐに猫の強烈なパンチを食らってしまい、そのまま庭で伸びきってしまった。...猫ってあんなにパンチが強い生き物だっただろうか。それとも余程耐え難い何かがこの力を生み出したのだろうか。まだまだこの世界は私の知らないことが多いみたいだ。

その猫は誰に媚びる様子なく、アンプを連れて行ってしまった。私も気になってその猫達について行くことにした。




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