第41χ TVではないものが映画館にはある@




記憶を無くしてから幾日か過ぎた。
学校初日は普段通り過ごすのに中々苦労したが、今ではみんなとの会話にもついていけるくらいに順応することができている。その苦労話は後ほど語ることにしよう。

会話についていけるようになったとは言え、まだまだ記憶の欠落のせいで不便することも多い。それを少しでも解消しようと休日は情報収集することにしている。
情報収集するのは外に出るのが一番だ。インドア派の私としてはなるべくなら家にいたいのだけれど、それでは何も変わらない。だから、私は今日もぶらぶらと当てもなく街を彷徨っている。

人が多い駅前に出たものの、人の多さに早くも酔いそうになっている。まだあまり得られるものはないのだが、ここで無理しても仕方ないと家に戻ろうと歩き出そうとすれば、そこで見慣れた人物の姿が目に留まった。

「あれは...楠雄くん?」

いつも表情1つ変えない彼が不安げにキョロキョロと辺りを見回している。彼も人混みが苦手なのは知っているけど、あそこまでだとは知らなかった。彼といれば何か思い出せるかもしれない。ふと過ぎった思考を信じて彼の元へ。

「楠雄くん、こんなところで何してるの?」

背後から何気なく声を掛けたら飛び跳ねんばかりの勢いで物凄く驚かれてしまった。背後から声を掛けたのは悪かったけれど、少し大袈裟すぎるんじゃないだろうな。少し傷付くよ。

「散歩か何か?良ければ、私も一緒に行っていいかな?」

質問の仕方を間違えただろうか。ゲームの世界じゃあるまいし、いきなりついて行っていいかと聞くのはあまりにも怪しい。楠雄くんもなんだか疑いの眼差しで私を見ている気がするし...咄嗟に新しい趣味見つけたくてって付け加えたけど、私なら絶対NOと言うだろう。

楠雄くんは暫く考えこむも、コクリと頷いてくれた。...それはついて行っていいと言うことだろうか。心にかかった不安と言う雲がパッと消え去って嬉しさに心が跳ねるのがわかる。
歩き出した楠雄くんについていけば、そこは映画館。楠雄くんは映画好きなのかな。中に入ってく楠雄くんについていくように私も映画館の中へ。





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