第38χ 乙女 × ChocolateA




「は、灰呂くん...!」
「あぁ..平凡さんか。手荷物が多いけどこのままでいいかな?」

鞄に、両手の紙袋とたくさんのチョコを抱えて困り顔の灰呂くんの元へ。これだけ受け取ったなら私がわざわざ渡さなくてもいいかとは思ったけど、海や体育祭とかでお世話になったし渡してみよう。灰呂くんなら受け取ってくれるはず。

「去年は一年、お世話になったから..お礼チョコをもらってもらえないかな?」
「勿論だ、喜んでもらうよ!と、言っても手が出せないから袋の中に入れてもらっていいかな?」

彼が紙袋を差し出した中に私のチョコを入れる。これを全部食べたら虫歯、肥満一直線だろう。けど、運動好きな灰呂くんなら大丈夫かな。私は次の場所へ向かった。

続いては教室にいる二人組。
何やら燃堂くんは楽しげに、海藤くんはしょんぼりしている。なんだか話しかけにくいけど、とりあえず行ってみよう。

「あの...燃堂くんに海藤くん。去年お世話になったからお礼チョコ受け取ってもらえる、かな?」

彼らにとって予想外の事態だったのか、目を丸くして固まってしまった。その反応は逆に困るのだけれど。固まったと思えばいきなりはしゃぎ始めてしまった。よくわからないけれど、喜んでもらえたようで良かった。さて、次!

続いては、隣のクラスの彼の元へ。
廊下からこっそり教室内を覗けば、鳥束くんは机に突っ伏していた。寝ていたら申し訳ないのだけれど、あまり時間があるわけではない。さっさと済ませてしまいたい。
なんとなく隣のクラスって安易に入ってはいけない気がして扉の近くにいる人に呼んでもらい、少しやつれた顔の鳥束くんにチョコを手渡す。

「顔色悪いけど大丈夫...?これでも食べて元気になってくれたらいいんだけど。去年お世話になったからお礼チョコです。」
「え...いいんっスか?俺で間違いない?」

燃堂くん達同様チョコを見るなり固まってしまった。よほど信じられないのか、自身の頬をつねったりしている。痛みに現実だと納得できたのか、受け取るなりどこかに走って行ってしまった。

そして最後の1つは彼に渡すつもりだったが、昼休みでは時間が足りなくて、結局渡すことができなかった。
彼は普段学校が終わるとすぐに帰ってしまうのだけれど、念のためまだどこかにいないだろうかと思って探してみたがやはり見つからない。
お向かいさんだから帰ってから渡してもいいのだけれど、流石におばさんが出てしまったら恥ずかしくて渡せる気がしない。...もう、今年初諦めるしかない。

とぼとぼと校門の前まで歩いて行く。
ふと背後から足音が聞こえると思って振り返ってみれば、帰ったはずの楠雄くんがいた。手にはすでに誰かからもらったものを持っている。恐らく照橋さんからだろう。

可愛くラッピングされたそれに言葉が詰まってしまって出てこない。渡したいのに、勇気が出ない。楠雄くんは私の横を通り過ぎようとしている。

「く、楠雄くん...!これ、っ。」

なんとか絞り出してようやく出た声と共にチョコを両手で差し出す。まともに顔が見られなくて俯いているから、彼が今どんな顔をしているかわからない。もしかしたら受け取ってもらえないかもしれない...待つ時間が途方も長く感じてしまう。

手から箱が離れていく。ハッとして顔をあげれば楠雄くんの手には私のチョコが確かにある。どうやら受け取ってもらえたようだ。
安堵に吐息を吐き出せば、さっきは出てこなかった言葉を付け加えるために口を開く。

「きょ、去年は楠雄くんにすごくお世話になったからお礼チョコ...喜んでもらえたらいいんだけど。」

わかったと頷く様子にまた安堵する。歩きだした彼に並ぶように私も歩いて行く。

こうして今年のバレンタインは無事成功で幕を閉じた。
渡す時はすごく緊張したけど、誰かのために何かをするのは、たまには悪くはないかも...しれない。





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