第36χ ニャウリンガルはお持ちですか?A




挟まった猫は絶えずニャーニャーと騒いでいる。助けを求めているのだろうけれど、ここまで鳴かれると何を言っているのか知りたくなってしまう。どこかにニャウリンガルでもないものか。

「僕は猫だぞ?誇り高きエリート生物の僕が人間みたいな下等生物に頭を下げるわけニャいだろう。」

突然聞こえてきた何とも傲慢な主張に、咄嗟に猫を見ればどこかにドヤッとした顔をしているように見える。

「猫語が...聞こえた?」

ハッとして楠雄くんの方に視線を向ければコクリと頷く。あぁ..彼の仕業か。
楠雄くんは最近知ったのだけれど、超能力者だ。私が無意識に猫に向かって困り顔でもしてしまったのだろう。わざわざ力を使って私にもわかるようにしてくれた。

私が理解する間にも、猫は喋り続ける。
人間は汗水垂らしてまで猫に餌を献上するだとか、何しても許してくれるとか、世界は猫が支配している...聞いているだけで呆れてきてしまう。楠雄くんが帰ろうとする気持ちが良くよくわかった。それでも見捨てない楠雄くんは偉いなって思う。

「助けてくゥだァさァイイー。これで満足か?」

楠雄くんとどんなやりとりをしたかはわからないけれど、猫の本性ってこんなに可愛くないものなんだ。知らぬが仏だよ、まったく。

やれやれというようにそろそろこのやり取りにも疲れてきたのか、楠雄くんが壁に手をかける。どうやって助けるのか期待して眺めていたら、壁がべきべきと音を立ててビルが傾いてゆく。私の目は点になった。

ようやく猫も抜けられたようで身体のそこら舐め回している。流石にあの体勢じゃそれもできないもんね。その間に傾いたビルは綺麗に直されて、元の通り佇んでいる。超能力ってこんなこともできるんだ。

無意識におーっと小さく拍手をすれば楠雄くんの眉間に僅かにシワが寄ったように見える。彼の中では超能力を評価されることはあまり喜ばしいことではない模様。以後、気をつけよう。

楠雄くんは鞄を持つとスタスタと行ってしまう。猫はこのままでいいのだろうか。あんな口聞いていたなら多分大丈夫かな。私は慌てて彼の後を追った。

「猫っていつもあんなこと思ってるのかな。だとしたら...少し悲しいね。」

楠雄くんの表情は変わらない。もう慣れたものだと言いたげな雰囲気さえ感じるくらいに。
きっと私よりもっとたくさんの、もっと醜い言葉を受け入れてきたのだろう。その心労の大きさは私には計り知れない。

私にとって超能力はまだまだ未知数だ。けれど、1つ1つ知ってゆけたら。君の抱えてきた苦悩を少しでも私が背負うことができたのなら。

ここがきっと私達の始まり...そんな気がした。





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