私があの人と初めて話したのはホグワーツに入学してから二年目のクリスマスだった。
「……」
九時まであと二十分。この時間、皆はまだ大広間でクリスマスパーティーを楽しんでいる頃だろうか。
クリスマス休暇はいつも、ロンドンの屋敷で親戚たちと共に祝うのが常だったが、今年はその話を断り、学校に残った。四つ上の姉、ルクレティアは悲しそうな顔をしていたが、私は小さく笑って見送ったのだ。
ホグワーツに残った生徒が企画したクリスマスパーティーは、どの寮でも学年でも参加可能で、誰が聞きつけたかは知らないが、愛らしいクリスマスカードを添えた招待状が届いた。
クリスマスカードと招待状を破り捨てて、私はスリザリンの談話室で寛いでいた。この時間ならば、誰かしらがいるかと思ったが、クリスマス休暇に加え、パーティーの最中……大きなソファを独占できたことに機嫌よくクリスマスソングが鼻から歌われる。
「Si-lent night! Ho-ly night!」
All is calm, all is bright,
round you vir-gin moth-er and child!
Ho-ry In-fant,so ten-der and mild,
sleep in heav-en-ly peace, sleep in heav-en-ly peace.
Silent Nightを歌い終わると、どこからか、風が談話室を駆けて行ったので、寒さにぶるりと体を震わせて、暖炉を見つめた。
パチパチと音を立てながら燃え上がる、赤い、赤い火……。ある事が頭を過ぎった。それは私の最近の悩みの種であり、このクリスマス休暇ホグワーツに残った理由であった。
トム・リドル。
私の三つ年上のスリザリン生だ。あの人はすごい。どの科目にも彼の名前がトップに君臨し、成績優秀な模範生として監督生を勤め、先生方に一目置かれている。だが、そのことを鼻にかけて、人を見下すのではなく、優しく紳士的な態度で皆に接していた。努力を惜しまず、何事にも一生懸命に取り組み、おまけに背が高くてハンサム。生徒の中にも彼に憧れや恋心を抱いている者は数多くいることだろう。
「……! 君は……」
「!!」
どれ程集中していたのだろうか。気付いたら談話室にはもう一人いた。なるほど、先ほどの風は、スリザリン寮の入口が開けられたから吹き込んできた風だったのか。私はゆっくりと、その人を見上げた。
「……君もパーティーを抜け出してきたのかな?」
くすりと柔らかい笑みを浮かべたのは、"あの"トム・リドルだった。
「……えぇ、まあ」
本当は最初から行ってなかったのだけれど。
「隣に座ってもいいかな?」
「はい」
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bkm