3

「君は一人で来たの?」
「ええ。……あなたは、家族と? 随分多かったみたいだけど……」

 親戚中で見送りにきたのだろうか。ウィーズリーは苦笑いを浮かべた。

「そうだよ。家族が多くてね……。僕が長男なんだ。男六人に、先月女の子が生まれたから七人兄妹だね」
「それじゃあ……家の中はとても賑やかななのね」

 ウィーズリーは思い出したようにクスクス笑う。アデラは昔、兄弟という存在に憧れていたことを思い出した。

「まぁね、静かなことはないかな。君は? 兄弟とか居るのかい?」

 何も知らないウィーズリーの言葉がアデラに突き刺さる。

「ッ……いいえ。いないわ……。一人っ子だから、……兄弟っていうのに、少し、ちょっとだけ、憧れていたわ」
「そうなの?僕は一人っ子に憧れてたけどなぁ」

 お互いに他愛もない話をぽつぽつ零しながら、時間が流れていく。
 ガラガラという音が通路から聞こえてきた。お菓子や飲み物を詰んだカートを初老の魔女が押している音だった。

「車内販売よ。何かいかが?」

 おばさんはやんわりと微笑んでウィーズリーとアデラを見る。

「僕はいいよ」
「私も、……っ」

 いらない、と口にしようと瞬間足首に小さく痛みが走る。視線を落とせばいつの間に起きたのか布の合わせ目からナーガが首を出し、アデラの足首に軽く噛み付いていた。

【な ん か 買 え】

 黄色い眼をギラギラと輝かせるナーガは獲物を目の前にしているときと同じ顔だ。アデラも睨み返す。アデラと不審な態度に気付いたウィーズリーが首を傾げた。

「リドル?」
「あ、なんでもないわ。……えっと、蛙チョコレートとかぼちゃパイを五つずつ……。あと杖型甘草あめを一つ」
「はいよ」

 おばさんにお金を渡すと代わりに渡されたお菓子を席に置いた。おばさんはありがとね、と笑ってまたカートを押して消えた。

「驚いた、お菓子好きなんだね」
「……えぇ、まぁね。……ウィーズリーもどう?」

 アデラはかぼちゃパイを一つ、ウィーズリーに差し出した。

「え、でも悪いし……。君がせっかく買ったのに……」
「気にしないくていいわ。こんなに、『私は』食べないし」

 私が食べるんじゃない。ナーガが食べるのだと含ませながら、かぼちゃパイを押し付ければウィーズリーはニッコリと笑った。

「ありがとう!」

 ウィーズリーとそんなやり取りをしている間に、蛙チョコレート2つとかぼちゃパイが1つすでに姿を消していた。
 時折物音を立てる籠に遠い目をしながら、あめを口に含む。
 流れていく田舎の景色を横目にホグワーツまでの道のりを行くのだった。



―楽しみ?


(違うわ)
(とっても退屈な気分)
2017/07/27


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bkm
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