第一訓 久しぶりに会うと名前を忘れてしまう


第一訓 久しぶりに会うと名前を忘れてしまう


 大都市、江戸……そして、その中で荒くれ者たちが巣食う町、かぶき町。
そのなんでもない道端で、二人は再会した。

「あら? ……もしかして、銀時?」

 銀髪の男、坂田銀時は後ろから声をかけられ、いつもの気怠げな瞳で振り返ったが、次の瞬間、その眼が大きく見開かれる。息を呑み、目の前に立つ者を見つめた。

「っ! お前は!!
(誰ですかぁぁぁ!!? 美女だ! 美女! やべぇ……でも、え……マジで誰!?)」
「まさか、銀時まで江戸にいるとは思わなかったわ」

 クスクスと口元に手を添えて笑う女は、その見た目とは釣り合わないような着流しだが、それを着崩し、覗いている白い肌と男ならば嫌でも眼を向けてしまう豊満な胸。

「ははは〜だろぉ〜?
(知り合いか!? 展開的には知り合いだが、俺の知り合いにこんな美女はいなかった!! ……はずだ!!)」

 胸と顔を交互に見ながら、笑う。

「ホント、懐かしいわ。……そうだ! 銀時、甘いもの大好きだったでしょ? 今も好きかしら? 近くの甘味処で奢らせてもらっていい?」
「マジか!! 行く行く!!
(顔も身体も一級品の上にめちゃくちゃ優しいだとォォォ!!!!!
過去の俺っなんでこんないい女、モノにしなかったんだコンチクショーォォ!! あ、鼻血でてきた)」

 銀時は鼻を抑えながら、自分の手を引く女と共に"でにぃず"という店に入った。銀時はパフェを、女はアイスティーを注文した。席に届くまでの間、何気ない話に花を咲かせている二人は端から見れば恋人同士に見えるのだろう。

「ふふふ、万事屋銀ちゃん? 銀時らしいわね! その頭、好きだわ!」
「へへっありがとよ」
相変わらずの天パーのことよ?
「………………」
「お待たせいたしました、パフェとアイスティーになります」
「ありがとう」

 銀時はいじけてか知らないが、目の前に置かれたパフェを食べようとスプーンでクリームを掬った。そこで、

 ドガシャン!

「まぁ!」

 どこからか少年が吹っ飛んできて、銀時たちが座っていたテーブルに勢い良く突っ込んだ。

「………」

 床に転がるのは銀時のパフェだったもの。派手にぶちまけられて、床を汚していた。そして、銀時の手にあるスプーンに僅かに乗っていたクリームも、ポタと儚い音を残してテーブルに落ちていった。
 銀時はゆらりと立ち上がる。

「ふふっ!」

 女は何が面白いのか、緊迫とした空気の中でも笑みを止めることはなかった。


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bkm
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