私に、君に、幸あれ。
「「「うぁあああ!!!!」」」

 崖から真っ逆さまに落ちていく若葉たち、空を飛ぶことのできるピヨモン、テントモン、パタモンはそれぞれのパートナーである空、光子郎、タケルを助けようと試みるが、力に限界があるのか、耐え切れず落ちてしまった。パルモンがミミを抱えて自らの触手を使い岩壁に掴まるがそれも崩れてしまい落ちていく。下はどうやら川のようだ。

「!!」

 大きな川の水の流れが若葉の眼に入る。普段は重たげな眼をこれでもか、と見開き、体はまるで最初から石像であったかのように動かなくなった。

「ッ!!!!」
「若葉ッ!!」

 視界の片隅で真っ赤な手袋に覆われた手を一生懸命こちらに伸ばしているインプモンが見えた。しかし、若葉はそちらに腕を伸ばすことはおろか、顔すら向けることができなかった。

「"マーチングフィッシーズ" !」

 危うく水面に叩きつけられるところを、水面から突如といて現れた色とりどりの魚たちが受け止めてくれた。子供たちとデジタルモンスターたちを背中に乗せた魚たちは水の流れに逆らうことはせず、下流に向かって泳ぎを進める。

「た、助かった……」

 子供たちがふう、と息をついた刹那。

「! ……おい、あれ!!」

 ヤマトの声に上を見上げれば、先程まで立っていた崖がどんどんと崩れていき、飛ぶ力も残っていないのであろう、クワガーモンが落ちてきた。あの巨体や岩が直撃したら、子供たちはひとたまりもないだろう。

「「「うわぁぁあ!!!」」」
「急げーーー!!」

 ゴマモンの掛け声により魚たちは泳ぐスピードが速めた。クワガーモンや崩れた崖が川に落ち、その衝撃が大きな波となって背後から迫ってきた。

「……ッや、……だ……!」

 小さい魚たちに掴まるなんてこともできず、必死にバランスを取り、襲い掛かってくるであろう恐怖に耐えよう体を抱えた。何かと一緒に。そこで、若葉の意識は遠のいた。


・・・・・・
・・・・
・・


「く……る……」

 ゆっくりと瞼を持ち上げれば、そこには水はなく、土が広がっていた。あちこちに子供たちとデジタルモンスターたちが転がっている。

「苦しいんだよッ!! いい加減はなせ!」
「あ、ごめん……」

 どうやら先ほど抱え込んだものはインプモンであったようだ。意図せずして、インプモンの細い首を締めあげていたようだ。そっと腕からインプモンを解放した後、自らの手を見つめた。

「……、」

 俄かに震えている。じっとその手を睨み、止まれ、止まれ、と念じていく。インプモンは若葉を凝視していた。流石にインプモンは気づいただろう、川を流されている間、ずっと抱えていたようだから。

「……ほら、とっとと立て」
「うん」

 インプモンに促されて立ち上がる頃には震えは止まっていた。そして、彼は何も言わなかった。


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bkm
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