Chapter 5-3
「ところで」

手紙の件に結論がついたところで、スィルツォードは不思議に思っていたことを口にした。
「ティマとリーゼって、どういうきっかけで知り合ったんだ?」
「「えっ?」」
何か話をしていた二人が、不意の質問にスィルツォードの方を向く。
つい先程は一揉めしていたが、今はまたすっかり落ち着いた様子の二人のやりとり。正しい形かどうかはともかくとして、二人の仲は良さそうだ。
「あっ、僕も気になるなあ」
セレンもそのことには興味があるようで、静観していた先ほどとは一転、話題に食いつく。
「でもティマリールが何かしでかして、リーゼがそのとばっちりを受けた、とかじゃないのかい」
「ちょっとー、なんでボクがトラブル起こしたことになってるのさー」
不満気なティマリールに、セレンは「ティマリールには前科があるからね」と、メンバーカードをちらつかせる。すると彼女は「あう……」と語気をなくしてうなだれる。どうやら件の責任は感じているようだ。
「あ、あの……ティマは何もしでかしたりは、してない、から……」
「セレンさん……お気持ちは分かりますけれども、そう疑いから入られては、ティマリールさんも気の毒ですわ」
リーゼとミストが、ティマリールのフォローに回る。
「そうだね、ごめんよ」
「いや、いいんだけどさー……」
ややふてくされたような顔で、彼女は頬を膨らませる。
「……じゃあ、ほんとのところは?」
スィルツォードがもう一度訊ねると、ティマリールは「えっとねー……」と言った。
「あっ、あたし飲み物取ってくる……」
思い出話をされるのが気恥ずかしいのか、やや慌て気味に、わずかに頬を赤らめたリーゼは席を立った。
「ありゃ。まっ、いいか……えっと」
聴衆が減ったことに構わず、ティマリールは語り始めた。


◇◇◇


……あれは、ボクが初めてクエストを受けたときのことだったかな。
ボクもこの前のスィルみたいに、よーしやるぞー! ってな感じで張り切ってたんだ。

「アンタ、一人で行くつもりかい?」
「えっ?」

カウンターに、ボードに貼り出されてた適当な紙を一枚取って持っていったら、ルイーダさんにそう言われたんだ。ボク、てっきり依頼は一人で受けるものだとばっかり思ってたんだよね。そのへんのこと、あんまりよく分かってなくってさ。
「もし不安があるなら、誰かおともに連れて行ってもいいんだよ。この依頼は初めて一人で受けるには、ちょっとばかり重い中身だからね」
そんなことを言われたら、誰だって一人で行くのは不安になっちゃうでしょ? だから聞いてみたんだ。
「誰でも、好きな人を呼んでいいの?」
って。そしたら、ルイーダさんが頷いて。
「呼ぶだけなら問題ないよ。ただ、そこから一緒に行ってもらえるかどうか交渉するのは、アンタ自身がやることさね」
なるほどー。いっぴきおおかみってのもカッコいいかな、なーんて思ったけど、ボクはどっちかっていうとみんなと楽しくやりたかったから、誰かを呼ぶとおもしろそうだと思った。それで、ちょっと呼んでみることにしたんだよね。

「うーん……ボクの番号が206番なんだよね」
「だね」
「よし、それじゃあ200番の人で!」
「……そんな適当な決め方でいいのかい? 職業とか、そのへんは」
「いいのいいの! とりあえずお話してみたいからさ、お願い!」
「まったく……物怖じしないその肝は、冒険者向きかもねえ」
ルイーダさんは、ふうと息を吐いて、それからすうと吸って、叫んだんだ。

「No.200!! いるかい!!」

そりゃもう、酒場全体に響く大声だったなー。どっから出してんだろ、ってくらい。すみっこのテーブルにいた人たちもみーんな、がばっとカウンターの方を振り向いたよね。だけどしばらく待ってみても、なかなか200番の人は出てきてくれなくってねー。
「……残念だけど、いないみたいだね。どうする?」
「じゃ、100番!」
ボクはあんまり考えもせずに言った。そしたらルイーダさんは呆れた顔だった。
「まったく、あたしも喉が強い方じゃないんだ。叫ぶのはこれっきりにさせとくれよ」
そう言いながらも、叫んでくれるんだよね。さすがルイーダさん。

「No.100!! No.100は!!」

またさっきと同じくらいの声が響いたあと、けほっけほってルイーダさんが咳き込んじゃった。あー、さすがに無理言っちゃったかなーって反省して、これで見つからなかったらもう一人で行っちゃおう! って思ってたんだけど。

「……呼び、ましたか……?」

泣きそうな声が入口から聞こえてきたんだ。まわりがしーんとしてなかったら間違いなく聞き逃してたと思うな。
振り向いたら、とんがり帽子をかぶったオレンジ色のスーパーさらさらヘアーが見えてて。ボク、すぐにビビッときた。
「あっ……いつもお花に水やりしてる子だね!」
「はっ、はい……そう、です、けど……」
びくっ、ってその子の肩が震えたのが見えちゃった。
……あれ? ボク、この子を怖がらせちゃってる?
ただでさえ小さいのに、縮こまってもっと小さくなっちゃってる。ボクも背は低い方だけど、それでもこの子がちっちゃく見えた。

「……ね」
なるべくやさしく声をかけると、その子は顔を上げてボクの顔を見てくれた。
だから、言えたんだ。
「ボク、ティマリール。よろしくね」
笑顔は大の得意。すっと手を差し出して、待ってたら……。
「リ、リーゼ……です。よろしく、お願いします……」
そっと、手が握られた。ずっと水をやってたからか、ひんやりと冷たい手だった。

……まあ、そういうわけで、ボクは一人でクエストに行かなくてすんだって話。
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