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真夏の夜の過ごし方(前) *R-18

*Memoネタ/現代原沖

ソファに寝そべって、窓から入って来る深夜の風にあたりながらアイスを食べる。暑くてダルくて仕方ないけど、何だかすごく贅沢してるような気分だったから、その時は邪魔されたくなかった、理由なんてそれだけ。



「暑いからしたくない」


そう言って、恋人との交わりを拒否しようとした沖田の言。
聞き入れてもらえなかったばかりか、受けたのは思わぬ反撃……言うんじゃなかったと悔やんでみても、所詮それは後の祭り。




週末、久々に泊まりにきた原田の家。
恋人の家に泊まりとなれば、もちろん沖田も“そのつもり”で――甘く熱い時間を共有し、たっぷり愛してもらうつもりだった。

しかし、いざ週末が訪れてみれば、前日まで続いていた夏とは思えぬほどの薄ら寒い天気が、嘘のような熱帯夜。

耐えられない程ではないにしろ、汗ばんだ肌を重ねあわせてベッドで横になりたい…とは思えず、買ってきたアイスを片手にダラダラとソファに寝そべって、ちょっとした「愚痴」を、軽い気持ちでこぼしてしまった。

コトの発端は間違いなくその一言。


「暑いからしたくない」


沖田としては、まるっきり言葉通りの意味で言ったわけではない。


食べてる間は待って欲しい。

シャワーで汗も流したいし。

寝室の冷房をつけてくれたら嬉しいな。


だからとりあえず、
“今は”したくないのだ、と。

言葉にするのが億劫で、伝えることを怠ってしまった様々な理由のために、予想外の事態を招くことになろうとは―――少しも考えていなかった。


「それじゃあ、イイコトしてやるよ」


間近に迫る含みのある笑顔。
そして感じる、恋人の纏う空気の変化。

頻繁にあることではない。けれど、稀に顔を覗かせる原田のサディスティックな一面――可愛い悪戯心――では済まされない何か、を煽ってしまったのだと気付くのに、さして時間はかからなかった。


ソファに寝転んだ身体に覆い被さり、その場に縫い付けるように唇を重ねてきた原田を、沖田は思いきり睨みつけた。
スイッチの入ってしまった相手に何を言っても無駄だろうことは、決して短くない付き合いの中で嫌というほど理解していたのだけれど――「したくない」と言ったにも関わらず、聞き入れてもらえなかったことに対するせめてもの抗議の姿勢は見せておかねば…と。

徒労に終わるとわかっていても。


徐々に深くなっていく口付けに、言葉も意識も飲みこまれていく―――

沖田自身よりも、その身体を知り尽くしてしまっている舌が口内を這いまわる。冷えた舌に絡められた相手の舌がやけに熱く、生々しく感じられて、そのネットリとした感触に沖田はうっとりと目を細めた。

絡み合う粘液。混ざり合うのは、手にしているアイスのソーダ味と、原田が先まで口にしていたブランデーの味――…


(一緒に、食べるものじゃないな)


相性は最悪。
味、としては落第点。

しかし、
不味いと思いながらも、もっと欲しいと強請るように舌を差し出して啜ってしまうその蜜は、さながら麻薬のようではないか。そんな風に思いながら、的確にまさぐられる口内の性感帯への愛撫に、沖田は夢中になって応えた。

互いに違う舌の温度が、絡めているうちに徐々に相手に近付いていく変化を楽しみながら、角度を変える毎に出来る少しの隙間で2人は笑い合う。

「ん…っふ、ふふっ」

唇で感じる互いの吐息での愛撫と、
ぴちゃぴちゃと粘液と舌が奏でる淫靡な音が、聴覚からの刺激として身体を熱くさせる。
口唇が離れるたび、どちらからともなく繋がれた透明な糸を、辿ってはまた噛み付くように口付けて――貪りあう。そんな交感を何度も繰り返した。

「んぅ…はぁっ。は……左之、さ…」
「総司――」

冷えた口内が本来の温度を取り戻した頃。
暑さの不快感に勝る快楽を存分に与えられ、完全に抗うことをやめた沖田は、全てを委ねようと目蓋を下ろした。
同時に、広がっていく喜悦。

それから胸元に感じたのは―――、無意識に身体が跳ねてしまうほどの鋭利な感覚だった。


「やっ、ん!…冷た…っ、なに……」


“痛み”とも錯覚してしまいそうな冷気の正体を暴くため、沖田は自らの胸元に視線を向けた。
目にしたのは、キスに夢中になっている間に肌蹴られていたシャツ。そして、いつの間にか原田によって奪われていたソーダ味のアイスが、肌の上を滑っていく光景。
首筋をなぞり、鎖骨の窪みを通って―――上気した肌の上で溶かされ液体となっていくその痕を、原田の舌が舐めとっていく。

「あっ…?!ちょっ…や、だ…!」
「冷たくて、気持ちいいだろ?」
「よ、よくなんっ……ぁ」

反論は認めないと言わんばかりのタイミングで、沖田の胸の真ん中から臍に向かって一直線に、溶けかけた冷気のかたまりがスライドされていく。まるで、氷のメスをいれられたかのような感覚に耐えられず、ビクっと大きく跳ねた肢体を見下ろしている原田の目が、愉快そうに細められる。

「や…だ、これ!…変なっ、感じ…する」

肌を粟立たせた沖田が、嫌々と首を左右に振って身を捩らせた。


冷やされた肌は、そこに触れるものの熱さを増長させて伝えた。
ざらついた舌の感触が、普段よりもよりリアルに感じられ、強く吸われた箇所は火傷を負ったのかと不安になるほど、じんじんとした疼きを肌の上に残していく。

「お前の体温で、すっかり溶けちまったな」
「んんっ…冷たい…ってばぁ……」
「最後、ちゃんと味わって食えよ?」
「やだ…ぁっ、んんっ…あつ…いっ」

溶けきってしまったアイスを肌に塗りこむように、原田の指先が薄い腹筋の割れ目を丁寧になぞる。

既に混乱しきっている沖田の感覚は、
それが冷たいのか、熱いのか、気持ちがいいのか――理解することが出来なくなっていた。
それでも行為に慣れた身体は、性感をなぞられる度に小さく震え、無意識に腰を揺らす。


「やらしくて、可愛いな」


耳元で囁かれる原田の嘲笑うような声ですら熱に変換されるのか、沖田の肌がほんのりとピンクに染まっていく。


「左之さんっ!ねぇ…ふ、普通に…しよ?」


もう暑くても文句言わないから。
こんなのは、イヤだ。

口では否定しているものの、身体は更なる刺激を求め腰を燻らせる。
僅かに残る理性とはうらはらに、制御のきかなくなっている自身に戸惑っているらしい沖田の様。それが更に原田を煽ってしまっていることを、本人は全く気付いていないようで――


(ベッドん中じゃ大胆になったもんだ、と思ってたが……)




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