小説 | ナノ





時渡り 〜貴方を護りたい〜 6


「ねえ、土方さん。
いつか来る別れの為に準備して待つのって可笑しいと思いますか?」



昼下がりの部屋。

差し込む光は柔らかく温か。

庭を通り過ぎる風が草木を揺らし、部屋へとその香を運んで来る。

そして、傍には沖田。

そんな究極と思える和みを満喫していた土方の耳に唐突に届いた不穏な問い。

「なんだって?」

思わず詰問口調で問い直した。

「ですから。
いつか来る別れの為に・・・」

「愚かだな」

一刀両断言い切って、土方は沖田の額を突いた。

「痛いですよ」

「痛いように突いたんだ。当たり前だろ」

言ってため息を吐いた土方が、しかし次の瞬間ぐいと膝を進めて真剣な眼差しになる。

「まさか、原田に浮気されたのか?」

いきなり核心を突いた言葉に沖田は目を見開いた。

「そうなのか!?」



あいつ・・原田!

絶対総司を大切にする、とか何とか言ってお
きながら・・・!


「ま、待って下さい!違います!違いますから!まだ、浮気されてませんから!!」

両手を固く握り締め、決意籠った様子で立ちあがった土方の袴を、沖田は必死で掴んだ。

「まだ、ってこたあ、なんだ。そういう風になりそうな気配がある、ってことなんだろうが」

不機嫌に座り直し、土方が沖田の目を見る。

「・・・何か凄く鋭いですね」

たった一言で、ここまで知られると思わなかった沖田が苦笑した。

「お前の事で、判らねえことなんざねえよ。
しかも原田の相手、浮気じゃねえっぽいんだろ?」

その言葉に今度こそ沖田は絶句した。

「莫迦が。それで隠したつもりか。てめえひとりで悩むんじゃねえよ」


まったく仕様のねえ。


呟きつつ、土方が沖田の髪を少々乱暴に撫でる。

「お前は、余計な事はぺらっぺらしゃべりやがるくせに、肝心要な事は隠す・・・昔っからだ」

近づいた土方の瞳。

その優しい色にまるで包まれるように映っている自分。

それを、沖田は不思議なものを見るように見つめた。

「何だ?どうかしたのか?」

そんな沖田にかかる、訝し気な土方の声。

「土方さんの目に、僕が映ってます」

言われ、土方は益々怪訝な様子になった。

「そりゃそうだろ。お前を見てるんだから」

「そうですよね。今は未だ、こうして・・」

「総司!」



未だ、土方さんの瞳にも映れる。

未だ、生きているから。



言いかけた言葉は、土方に依って遮られた。

「ほんと。悔しくなるくらい察しがいいですよね」

面白くないと声音にのせ、拗ねたように土方を睨む。

「可愛くねえ言い方してんじゃねえよ。逆効果なんだ、っていい加減判れ」

不満をのせた声も拗ねたような眼差しも、土方にとっては甘えられているようにしか感じられない。

「いいか、総司。閻魔の処に行くんでも何でも、勝手に俺の前からいなくなるなんざ、許さねえからな」

強く真摯な土方の目が沖田を射抜く。

「それからな。
原田が他に心移りしそうだってんなら、先に捨ててやれ。・・・お前なら、いつでも俺が貰ってやる」

「・・あ・・」

真っ直ぐな土方の目。

その真摯な瞳に沖田は見覚えがあった。



『本当に原田で幸せになれるんだな?
遊ばれてるだけかも知れねえんだぞ?
浮気されるかも知れねえんだぞ?』


いつだったか、原田とそういう事になったと報告した日に向けられた目。

そのときと同じ強さで土方が沖田に告げる。


お前なら、いつでも俺が貰ってやる。


「土方さん・・・」

それで思い出した。

あのとき自分が言った言葉。


『左之さんじゃなきゃ嫌なんです。何があっても、僕は左之さんを信じるだけです。そうですね、浮気は・・しない、させない、許さない、かな』


冗談のように笑って、原田の傍が何より幸せなのだと言った自分。

それを寂しく切ない瞳で認めてくれた土方。

それなのに、また同じように土方を傷つけてしまった。

「何だよ。思い出したか?」

見つめる先、土方の表情が酷く穏やかなものに変わる。

「てめえで言ったんだ。原田を信じて幸せになる、ってな。貫け」

大きくて温かな手に何度も頭を撫でられた。

「凄く悔しいですけど・・・ありがとうございました」


まあ、いつでも貰ってやるってのは冗談じゃねえからな。


そう言う土方に沖田はもう一度心の中で一礼した。



そして、改めて誓う。

原田を信じて幸せになること。


浮気は・・・・。


言った言葉を思い出せば、苦笑が漏れる。

それでも、あの時には紛れも無い本心だった。

基本、今も変わりはしないけれど、変わった事実も確かにある。

だから沖田はそこにそっと付け加えた。




でもそれは。

僕の命が尽きるまで。



自分の命が尽きたあと。

その後も原田には幸せでいて欲しいと沖田は
思う。


僕が見た光景。

どっちが先なんだろ。


新居を見に来ていた原田と寛永寺の原田。

もし、寛永寺が後ならば、新居を見た後、原田はたいせつなひとをあの場所へ遺してしまう事になる。


それは、避けないと。



強く思い、沖田は水晶を握り締めた。















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