4.
ふっくらとした柔らかな耳たぶを甘噛みしてから、中へ染み込ませるように囁く。
「食っちまって、いいよな?」
一応確認してみるものの、もう待つ気なんてこれっぽっちもない。もしもダメだと言われたら、コイツが「して欲しい」って泣くくらい、その身を蕩かしてやるだけだ。
「…ぷ…ふふっ……」
そんな事を考えていると、腕の中の総司が何故か可笑しそうに笑い出した。場違いなそれに、思わず動揺するのを隠す。
少しだけ身体を離し、乱れた呼吸の合間にくすくすと笑う総司を覗き込む。
濡れた瞳に上気した肌、漂う色気に子供のような無邪気さを融合させた総司は、なんとも形容しがたい妖しい雰囲気を纏っていて。
すぐにでも、その姿態を貪ってやりたいと言う衝動をぐっと堪える。こんなにも余裕がないのは初めてのことで、まるで童貞ん時に戻ったみたいだと内心自嘲するしかない。
ひとしきり笑って、呼吸を落ち着かせた総司が、俺の肩口に顔を埋める。
ねえ…、と。
聞こえるか聞こえないかの音で、独り事のように小さく呟かれた言葉に、また驚かされたのは俺の方だった。
「…手は、出さないんじゃ――なかったんですか?」
「!!……お前、なんでそれ」
「左之さん」
総司がゆっくりと身体を起こす。
顔をあげて、正面から見つめてくる目は真剣そのもので――俺はその中にある真意を汲みとろうと、そらさずに見つめ返した。「ほんとに……」と、総司は小さく何か言いかけ口を閉ざす。
しばしの逡巡の後。
躊躇うように目を伏せて、視線を泳がせた総司の口から出てきた台詞は、俺の予想の斜め上をいくもんだった。
「本当に、僕で、いいんですよね?」
「………?!」
開いた口が塞がらないとはまさにこのコトだ。
何故この状況下でそんな疑問を抱いたのかは、あとでたっぷり聞いてやるとして……
「お前でいいか、だ?寝惚けたこと言ってんじゃねえ。お前だからいいんだろ――総司 が、いいんだ」
切なげに揺れる瞳が本気だったので、何とかそれを拭ってやるために本音を語る。
「惚れた相手にハンパな気持ちで手は出さねえ。総司だけでいい。……お前だけだって、俺は、もうとっくに決めてる」
「―――……うん」
俯いた総司の表情は見えない。
身体の中の沸騰した熱を冷ますように、一度深く息を吐く。
キツく腰を抱いていた手を緩め、子供をあやすように優しく背中をさすってやると、総司も素直に俺の胸へ身体を預けてきた。髪にもそっとキスの雨を降らす。
「なんで、そんな事思ったんだよ?」
「それは……内緒です。」
「総司?」
「内緒でいいんです。左之さんが本気なら、それでいい」
そう言うや否や。
総司は俺の首の後ろへ両腕をまわし、引き寄せて唇を重ねてきた。
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