小説 | ナノ





3.

「悪ぃ。ガマンしようと、思ってたんだけどな」
「…はっ…ぁ。左…之さ――んっ?」

貪るようにふさいだ唇はそのままに、肩をおさえ込んでいた手の片方を、総司の背に沿わせゆっくり腰へと滑らせていく。肩甲骨の辺りを辿って背骨を優しくなぞるように。緊張のためか身体を強張らせるその感触すら楽しんで……。細い腰の感触を確認してから今度は手の平全体で、撫でてやるように往復させる。

その感覚から逃れようと身を捩る総司の肩を、少々乱暴に壁へと押し付ければ、驚きからかその目が見開かれた。今にもこぼれ落ちそうな雫を浮かべた瞳がやけに愛しくて、うっすらと滲んだ汗で額にはり付いた前髪をそっとかきあげてやる。

「っ…!……ゃ、やだ。見ない、で」

(んな、可愛いこと言われても)

今のは俺を煽るだけだぞ、と心の中で指導する。可愛いので教えてやる気は毛頭ないが。

そうしてから、顔を背けたせいで顕になった総司の耳へ舌をすべり込ませれば―――びくんっ、と。これまでにない程、大きくその身を震わせた。

どうやらココも弱いらしい、とほくそ笑む。

髪をすいてやりながら、時折もう一方の耳にも指を掠めさせれば、その度に跳ねる身体。俺の名前をうわ言のように繰り返す総司に、自制心が音をたてて崩れていく。

実際、背を這わせていた手はいつの間にか自重が効かなくなっていたらしい……気が付けば俺の手は、総司のシャツを捲り上げ、しっとりと汗ばんだ素肌を堪能していた。


(生徒のうちは…って、思ってたんだけどな――)


自分で作った戒めに、自ら白旗をあげるのは正直口惜しいのだが、好きな奴のこんな痴態を見せられて、反応しない男なんているわけがない。暫しの葛藤に手が止まる。「あぁ、くそっ…」と。思わずこぼしてしまった呟きに総司が不安そうな目を向けていた。
「…さ……左之、さん?」
やっぱり僕じゃ勃たないんですか……なんて考えを本気で持っているのなら、そんなもんはさっさと捨ててくれ。
はぁ――と大きく息を吐いてから、今度こそ俺は降参した。

「…駄目な大人で、悪いな――」
「え…、あっ…」

総司をきつく抱きしめて唇を重ねる。
置き場に困ったかのように彷徨う総司の腕に気付き、自らの背へ誘導して密着を深めた。優しく啄ばむようなキスを、角度を変え何度も何度も繰り返す。
気持ち良さそうに細められていく翡翠の瞳。額を合わせ、その目を真っ直ぐ見つめながら、もう隠すつもりもない己の欲望の証を、同じように熱くなっている総司のそれへと押しつけた。

「っ…んっ!?……ぁ…之、さっ、ぁ…」

互いを擦り合わせるように腰をゆらす。
総司からひっきりなしに発せられる甘い声。

「お前、エロすぎ…っ」
「ぁ…な、なんっ…なん、でっ――急にっ…!」

「言った、だろ。悪いな、って。もう――我慢すんのはやめたんだよ」

ズルい大人である俺は、総司が否と言えないくらい、存分に熱を昂めてから動きを止めた。

「ぁ…ゃだ。ねぇ…、さのさっ……」

はたして俺はこんなにキス魔だっただろうか?

熱に浮かされた総司の表情があまりにも美味そうで。
額から順に、こめかみも瞼も鼻筋も、頬も顎も全部。俺のものだ と顔中余すところなく口付けて――最後に、強請るように上向けられたその唇をじっくりと堪能する。
より深くなるよう腰を強く引き寄せると、戸惑いながら俺の背に添えられているだけだった総司の腕も、応じるかのようにキツく抱き返してくる。

――そんな小さな反応がただ嬉しいなんて、どんだけこいつに惚れてるんだって話だ。

総司の耳を隠す髪を鼻先でかきわけ、ふっと息を吹きかけた。舌でぴちゃぴちゃと濡れた音をたてながら、乱れる呼吸で「総司」と、繰り返し名を呼んで聴覚を犯す。

「はッ…ぁ、ゃだ……もぅ…ッ」

のけぞって顕になった首筋も。快感に耐えようと爪をたててくる背中の手も、震える足も。どこもかしこも愛しくて、早く味わいたくて仕方ない。一度箍が外れてしまえば、理性なんてあってないようなもんだ。

(どうやって今まで堪えたんだか……)



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