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きっかけなんて些細なことで(中)

その日、朝からの巡察は1つの厄介事もなく交代の時間をむかえた。
いつもこんななら土方さんの胃痛も少しは和らぐだろうに…と、屯所へと報告にむかうその途中、門の前で出くわしたのは、意外なことに近藤さんだった。

何人かの護衛を付け正装をしたその姿に、上からの招集だろうと察する。

「原田君か、巡察ご苦労様」
「いえ、それより。総司と出かけるんじゃなかったんですかい?」
「うむ。そのつもりだったんだが……急な呼び出しがかかってしまってね。総司には申し訳ない事をしてしまったな……」

はは、と渇いた笑いを漏らすことしかできない。

(こりゃあ相当、荒れてるか?)

総司のことだから、自分が護衛につきたいと土方さんに駄々こねて。突っぱねられて不貞腐れているかもしれない。

“近藤さんのため”に腕を磨き強くなった「一番組組長・沖田総司」は、その肩書きのせいで近藤さんの近くに居られないことも多い。それをあいつが歯痒く思っているのはわかってるから、不貞腐れるのも仕方ないとは思うんだが。

(総司を連れてお上に会いに行くなんて、警戒心丸出しで挨拶しにきましたって言ってるようなもんだからな…)

悔しさと寂しさをにじませた、総司のしかめっ面が浮かぶ。

「そうだ原田君。良かったら総司にあの茶屋の甘味でも渡してやってくれないか?詫びになるとも思えんのだが――」
そう言って近藤さんが懐から銭を取りだそうとするのを俺は慌てて遮った。
「あー―…いや。俺、今から帰ったら暇なんで。誘ってみますよ」
近藤さんと過ごせると、あんなに喜んでいた奴が素直に俺に付き合ってくれるとは思えない。手土産を買っていくにしたって、「近藤さんからだ」って渡してやった方が良いんじゃないかと思えるのに―――

「そうしてくれるか。それなら総司も喜ぶだろうしな。」


近藤さんが、じゃなくて。
俺が、笑顔に出来たらいいのに、と。

気丈にふるまってるくせに、本当は寂しがり屋で虚勢はってるだけの――どこか放っておけない“子供”なあいつを思い描く。想像のあいつはやっぱりしかめっ面をしていて、俺の笑みも苦々しいものになる。




お前が笑ってくれたなら――・・・


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