猫になって


粉入りの小さな透明の袋を見せた。
新羅は見たことがないようで、でも分かっていて何事も程々にねと歩いてコーヒーを置いて言った。名前は?うんそうだな、

「ファストキャット」
「猫ね。お似合いだ」

今じゃ猫は駆除されるか事故死か、何にせよ寿命なんてあってないようなものばっかりで。なら今を楽しく生きてみたらどう?速い猫は捕まらない。これだってほら、いまコーヒーに入れたみたいにすぐ溶ける砂糖と同じ、速いから見えないだろ?だから分かんないんだよ

「その生き方が悪いとは言わないけど。君の楽しく生きるためだって言うんならね。」
でも薬は良くないなぁ。砂糖とコーヒーと薬が混じって分からなくなって喉を通過した時点でもう残念でしたと言わんばかりに良さも悪さもなにもかも混じりきってぐちゃぐちゃで全部溶けてて俺の体内をめぐる
そのうち死ぬよ。そうかもね、その時はもう人の形じゃないかもしれないけどね
にっこり笑って言ってみせた。新羅はそれも気に入らないみたいで一度眉を曲げてソファに体育座りの俺を指差してから言った。

「君はきっと死なないように、死んでく」


死にきれない死体になったところで悲しくないし虚しくない、助からないだけ。
(愛も、寂しさも)
猫は知らないとこで死ぬから安心して。死体にはなりきれないかもだけど速いうちに愛も死体も何もかも見えなくなってみせるから


「そうなったらどれだけ幸せだろうね」
「死体処理はごめんだよ」





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