羽音


羽が切れたら死ぬんだろう。

夜の暑さは気怠げでなにもかもが怠慢だと言う気がした。そんな中を歩く金髪と黒髪、正反対がもたらすコントラストがいかに目に悪いか誰もが心で分かってるし分からないわけもない、悪いのはそれだけじゃないことだって分かってる。
(そうなるのはぜんぶ俺のせい)
今更直せることじゃないけど、たまに嫌になる。気持ちだけが底冷えしていって、それから自己嫌悪

ここじゃ聞けねえなあ、さして興味も無さそうに言う。何が?答えに興味はないけど尋ねてみる。「鈴虫の音。」おおよそ場違いな音で言った。ここは都会だ、聞けるわけないでしょ?分かってるくせに無理難題


「羽を鳴らすのは求愛で」自分がこんなことを口に出すのは馬鹿って分かってる。それでも何より暑いからそのせいにしておこう。「羽を鳴らすのが自分の存在意義で」何かに押し付けるのが打開策、もう何も感じない。だから俺の存在意義も、例えば、喧嘩をふっかけるのが鈴虫のそれだとしたら、だとしたら、「シズちゃんの生にこじつけてるんだとしたら。どう思う?」

「羽をちぎる」「ひどい」
むごい、そういうことしか出来ないような間柄を今更壊そうと思わなかった。もう諦めが入ってるから。

「羽なんかで遠回しに伝えんな、分かんねえよ。んでもって口から吐き出せっつってやる。」
これが彼なりのむごい優しさだと気付くのに時間はかからなかった。羽は必要なくて、いらなくて、口があればそれだけで充分だって


「シズちゃん、」

好きだから、愛してみたいから今までは言わなかった。言えないし。1人だけの葛藤は崩れて暑さに溶かされて、そうして初めて


(好きだよって、言っていいの)




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