深爪


さりさりと鳴りながら落ちていく爪のかけらは少しずつ、けど確かに山となっていく。
仕事上キータッチが多いしあまり長いのは良くないから頻繁に爪は整える方だと自負している。以前長いままで仕事をしていたら爪に白い線がぴっと出て、このままじゃ剥がれることもあるんだよなあ、と思ったから気を付けていた。
女爪だけど、我ながら指先は綺麗だと秘書に言ったら「それ、自慢するところなの?」と言われて、実際は自分でもよく分からなかったからそうかも、とだけ答えておいた。

俺は爪を削るのを普段使ってるナイフでしていて俺が器用なのかナイフの切れ味がいいのか分からないけど結構きれいに整うものだった。新発見。ただ爪切りは汚い気がして嫌だからナイフを使うわけだけど、これも潔癖症のうちに入るのかな。うん、やっぱり分からない。

「切れるなあ」そう呟いて自分の指を切ってみる。すっと赤い線が引かれて、そこから赤い玉みたいな血がぷつぷつと沸いた。その玉は少しずつ増えて繋がっていった、その内垂れると思い手首を上に向ける。指先の玉は崩れて手のひらに届いた。

「俺は血が出るのに」

ふと平和島静雄の顔を思い出した。同じナイフで俺は切れる、あいつは切れない。血なんか出る訳も無かった、だってそもそも切れないから
耐えきれない劣等感、抑えきれない高揚感が一瞬でこころを埋め尽くす。ああなんであいつは切れないんだろう、同じなのに、同じなはずなのに。何より俺があいつより下にいるということ、存在そのものが違うこと、劣っていること、それを勝手に見せつけられた気がした。

「だからむかつくんだよ……くそ」


多分これは届きもしないしかといって他人に共感されるわけもない独り言で終わる、虚しい嫉妬なのだろう。そう思うと沸々と何かじれったい感情が沸いてたまらなかった。嫉妬?嫉妬、俺があいつに?信じたくもない、胸糞悪い、うざい、邪魔!俺を無自覚に支配するなよ調子乗ってんなよ化物の癖に、ああむかつくむかつく!


沸いてきたのは血だけでもなくって、また俺はあいつを嫌いになる。たぶんこれはずっと変わらない、かもしれない。削っていた爪は削りすぎで深爪になっていた。ふっ、と指についた粉を息で払う。

「シズちゃんのせいだ」


こころより切れた指の腹より深爪になった指の方が、もっとずっと痛かった。



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