「え、滝内来んの!?」
「それは俺も驚いた。でも高野が聞いたら、意外と予定が空いてて来れるって」
「滝内、先生やってるくせに…。でも、俺、滝内のノリの良さが好きだわ。前の堅苦しい教師と違って親しみやすいし、感覚が近い」
「それな。俺なんかうちの兄貴とよりも、滝内との方が歳がちけぇし」
「まじか」
どこから話し始めよう。
やはり3月16日金曜日の夜だと思う。
卒業式を終え、クラスの中でも就職やら進学やらが確定したメンバーで打ち上げを開いた。残念ながら予定が空いていなかったりなど、クラスメイトが全員集まったわけじゃなかった。
その頃、俺は既に前期で国立の教育大学に合格し、割と暇な時間があった。だから、この打ち上げでも幹事を任されたんだろう。
とりあえず、予定の空いているクラスメイト達を集めた。卒業記念に皆が予算を奮発し、予約した会場は広めの座敷になった。
20人近くで騒いでも平気な広さだ。
そこで誰かが滝内も呼ぼうと言い出した。
滝内というのは産休を取った担任に代わって、二学期と三学期の英語を教えてくれた先生で、俺は心から恩師だと思っていた。
…もっとも、俺が滝内に抱いた気持ちはそれだけではなかったが。
で、滝内はもしもの連絡用にクラスにメールアドレスを教えていたから、幹事である俺はそこにメールを送った。クラスメイトの皆で打ち上げをするから先生も来ませんか、と。
行く、との返事だった。
チャットのグループトークで滝内の返事をクラスメイト達に知らせると、とても盛り上がって、来れない奴らは悔しがった。
で、俺はメールが送られてきた携帯を握りしめ、滝内が来る話で盛り上がっている友人達を眺めながら俺達の恩師を待った。手の平に滲む汗の感覚は数年経った今でも覚えている。
春先のほんのりと暖かい季節。
桜が散り始める直前の、ちょうど危うい盛りだった3月16日の夜のことだった。
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時が経ち、記憶が薄れ、
俺はついにあの頃に向き合う決意をした。