伊瀬は本当に俺によくしてくれた。
部下のように扱ったことはなかった。弟のように温かく見守って、同じ立場である仲間のようにいつも笑いかけてくれた。
伊瀬から全てを教わった。
パソコンから情報を盗む方法も。
人の仕草一つから感情を読み取る方法も。
情報屋としての正しい振るまい方も、身を隠す方法も、身を守る方法も、嘘のつき方も、上手い駆け引きの方法も、拳銃の扱い方も、戦い方も、イカサマを隠してゲームに勝つ方法も。
全て、全て伊瀬が教えてくれたんだ。一歩ずつ、一つ一つ俺が覚えるまで丁寧に。
だが、堂々と言えないような仕事をしている割には、伊瀬は真っ直ぐな人だった。
裏社会の闇にどっぷりと身を浸からせて、嘘に慣れきっていたのに、大切だと決めた人には絶対に嘘をつかなくて、彼は彼なりの信念を頑固に貫いて決して曲げようとはしなかった。
背筋はいつもピンと伸ばされていて、瞳は躊躇いも不安もなくただ前を見据えていて、俺が伊瀬のことを知るのに時間はかからなかった。
伊瀬は誇りを持って情報屋をしていた。
大金に目が眩んだわけではなくて、スリルを欲したわけでもなく、ただ自分が信じた道を歩き、貫くためにこの仕事をしていたんだ。
俺も感化されて情報屋の仕事を好きになって、誇りを持つようになるほど、伊瀬は誠実で、強くて、芯の揺らがない人だった。
『皓、犯罪に手を染めちゃいけないよ』
だからこそ、
『僕らがやってることも犯罪じみてるけど、人を不幸に陥れる犯罪は許しちゃいけない。…そんな依頼を受けちゃダメだからね?』
違法賭博のカジノで、伊瀬が使っていた鷲のマークを見たことが信じられなかった。
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。