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罅割れの音


「俺さぁ、引っ越そうって思ってるんだ」

きちんと言わなかった俺も悪いと思う。

だが、早かれ遅かれ雰囲気がギクシャクし始めて、関係も冷めていくとは前から予想していた。

慧に対する感情に嘘なんかなかった。向けられた感情も本物だと知っていた。だが、一緒に生活してみればじわじわと開いていく距離を実感した。

慧が試験に合格して、俺がホストを引退して、同棲を始めて半年。蒸し暑かった夏は吐息も白くなる冬の一番寒い時季へと変わった。

温もりを求めて一緒に住み始めたはずなのに、擦れ違ってばかりだ。

慧は会社があるから朝早くに出ていって、夕方に仕事を終える。だが、接待やら残業やらがあるから帰ってくるのはいつも夜だった。俺はクラブがあるから昼過ぎに出ていって、深夜に戻ってくる。

帰宅した時は慧の寝顔しか見れなくて、昼に起きた時にはいつも一人っきりだ。それでも、微睡みの中でキスされる感覚があったり、昼食を用意してくれたり慧の温かさは確かに感じていたんだ。

俺はホストを引退した。

慧はハニートラップを続けている。

仕方ないと思ってる。ホストを辞めたところで俺に影響はないし、それが慧の情報屋としてのスタイルだ。それに、誰に愛を囁いたところで全て偽物で、慧は俺しか愛さないと知っている。…頭では。

だが、実質問題、心では納得できなかった。

シャツに口紅がついているのも、休みが重なった週末に電話越しに女と楽しそうに談笑するのも、女に贈る予定のプレゼントが部屋にあるのも。全て。

浮気じゃない。仕事だ。

慧だって仕事を受ける時はあらかじめ俺に言ってくれる。分かっている。分かっているんだ。…なのに、心が張り裂けそうに痛くて苦しかった。

一緒に住んでいるのに距離が少しずつ生まれて、金曜日の夜しか会えなかった頃よりも慧が遠くにいると感じてしまう。近くにいるのに遠いんだ。

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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。