「いきなり起き上がんなよ。昨日あれだけ抱いたんだから、痛むに決まってんだろ」
慧が呆れ混じりの溜め息を吐いた。
「もっと早く言え…!」
「跳ね上がるって誰が予想するんだ」
「跳ね上がるって言い方な…」
慧は呆れで半ば笑っていたが、隣に横たわる俺の腰を優しく撫でてくれる。その手は純粋にいたわってくれていて、伝わってくる寝起きの少し高い体温が痛みをいくらか和らげてくれた。
肌触りのいいシャツからは慧の香水の香りがして、俺にまで染み付いているようだ。
ムスクと紅茶とシトラス。
大好きな慧の爽やかな香り。
「ん?シャツ?」
見れば慧はホテルのバスローブを着ている。だが、俺が着せられているのは慧の香りがする白いワイシャツで、アイロン掛けがされていただろうそれもシワだらけになっていた。
俺のワイシャツじゃない。さらに、香水の香り。じとりと恨みがましく慧を睨めば、こてん、と可愛らしく首を傾げてくれやがった。
「なんでお前のシャツなんだ?」
「俺のを着せたかった」
「はぁ?」
そして、シャツの下に下着がない。
今更ながら慧から距離を取ろうとしたが、力強い腕に敵わなくて、寝起きで力の入らない俺は逆にすっぽりと抱き締められた。
慧の柔らかい髪が首筋にかかって擽ったい。クンクン、と鼻を鳴らした慧は俺を見上げて満足そうに笑って見せてから、昨日首筋に刻みつけた歯形を慰めるように優しく舐めた。
「随分と俺の匂いが染み付いたな」
敏感な首筋に這う熱い舌。
背筋が震えて、慧にしがみついた。
「…お前は俺のもんだ」
真面目な声色。朝の僅かに脱力しながらも鋭い瞳に、掠れた色っぽい低音。俺を抱き締めながらそう囁くのだから、破壊力が凄まじい。
どうしようもなく胸が高鳴る。
「真面目に馬鹿なことを言うな」
「俺は至って真面目だ」
「…お前なぁ」
ちゅ、と鎖骨を吸われた。
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目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。