情報を得る。
駆け引きは得意だ。だが、今回俺がほしいのは、YESかNOの二択の答えじゃない。
そんな簡単な情報なら他の方法もあったが、二択じゃない複雑な情報を得るための駆け引きにおいて一番有効なのが色仕掛け、いわゆるハニートラップだったんだ。
情報を扱うべく頭を回すことが理性だとしたら、蜜という感情は本能。理性の真逆に位置するものであり、理性を鈍らせる。
そして、それは皮肉にも大切な恋人が一番得意とするもので、…俺とあいつの関係が遠くなってしまった原因でもあった。
(まさか俺が使うとはな、…皮肉だ)
だが、戸惑いはない。
一番効率の高い方法だし、…それに、慧だって仕事のために使っていた。今更俺がこの体を誰に差し出そうが、情報という代価が返ってくるんだから浮気にはあたらないだろう。
俺は情報屋だが、ホストでもある。愛情を商品にするプロだ。…だから問題はない。
なのに、どうしてだろうか。
モヤモヤとした黒い霧のようなものが胸に広がって、すっきりしない。
まるで一筋も光が差さない真っ暗な闇に、沼のようなその闇に足を取られ、沈んでいって、二度と抜け出せなくなるような気がした。
(なんて、どれだけ緊張しているんだ)
らしくもない。
だなんて、ふっ、と笑ってみても、鏡に映った俺は嘲笑しただけのように見えた。
きっちりと着こなした黒のスーツ。一番上まで締めたシャツのボタンに上品な臙脂色のネクタイ。白手袋。後ろに軽く撫で付けた髪に、普段はかけない黒縁のスマートな眼鏡。
禁欲的な執事だ。だが、口角を吊りあげればホストとしての見慣れた色気が滲むのを確認して、また胸がズキリと痛んだ気がした。
(…誰を誘惑しようとしてるんだ、俺は)
とりあえず、今は仕事に専念しよう。
こうして俺はホテルの部屋を出て、指定された最上階の部屋に向かうべくエレベーターに乗った。
[ 95/179 ]
prev /
next
[
mokuji /
bookmark /
main /
top ]
目には目を、歯には歯を。
罠には罠をもって制するのが最善だ。