▽ 2話
学校に着いて調理教室に小麦粉を持って行けば待ってましたと言わんばかりに小麦粉を奪われた。
ジャンケンで負けたから仕方ないけど労りの言葉はないのか!と思っていたら部長によくできまちたねー!と頭をわしゃわしゃされる。
「ちょ、子供扱いやめてください!一歳しか変わらないですよね!!」
「ごめんごめん、桐原ちっちゃくて小学生みたいだから」
「そんなちっちゃくないですけど!」
「あとオーラが子供」
「失礼ですね!!」
とにかくありがとー!とまた頭を撫でられた。
琴音は疲れたー、と椅子に座ると友人の梨花がおつ、と飲み物を渡してくる。
「ありがと梨花ちゃん。でもあるから大丈夫」
「あれ?飲みもん持ってったっけ?」
「もらったの」
そう言った琴音が嬉しそうな顔をする。梨花はカンで男?と聞くと琴音はビックリした顔をする。その反応を見た梨花はニヤリと笑う。
「惚れたんだ」
友人の言葉に琴音は顔を真っ赤にする。惚れたのか、私は。
「そそ、そんなこと」
ない、とは否定できない。惚れたと言い切れないけれど、彼の深い青に魅入ってしまった。
そして笑顔が可愛いなぁとか思ったり…。
「女の顔してるわ」
ケラケラ笑う梨花を睨むが顔を真っ赤にしてするそれは全く怖くない。
「せっかくのチャンス無駄にするわけにいかないんじゃない?琴音ちゃん」
「チャンスって…」
というか琴音ちゃん、なんて普段呼ばないのにこんなときに大人ぶった言い方して。
「男なんだから、胃袋掴めば一発でしょ?」
「なにそれ…」
「こんなときに調理部としての腕使わなくてどうするの?」
ほらなに作るか考えよ、梨花はニッと笑いながらそう言う。
「…あの子の好きなものわかんないもん」
というか名前も知らない、わかるのはこの学校の生徒というくらいで。
「じゃあとりあえず無難なもん作れば?クッキーとかマフィンとかさ」
「そう、そうだね」
「今日ちょうど作れそうだし、作っちゃえば?」
「は!?はや、はやくない!?」
「どうせボトル明日返すんでしょ、ほら」
言われるがままマフィンを作ることになり、琴音はいつもより真剣に作る。
出来上がったマフィンを見た梨花がチョコペンを持ってきて「アイラブユーとでも描く?」と聞いてきたが琴音は顔を赤くしながら断る。
そして誰かが大量に買ってきたラッピング用品(おそらく部長)を使い、出来たマフィンをかわいくラッピングし、それを寮へと持ち帰った。
寮にたどり着いてマフィンを潰れないように机に出す。そしてまた考える。
「いきなり手作りのもの渡すとか重たくない…?」
お礼とはいえ、見知らぬ女が作ったもんだぞ…と不安になる。
やっぱり食べてしまおうかと悩んでいると携帯が鳴った。
着信を見れば幼馴染の黒田雪成で、もしもしと出る。
「LINE見た。そいつどんなだった?」
それはもちろん彼のことだ。
幼馴染達が乗ってるそれと似た自転車を乗った男の子。もしかしたら知ってるかも、と寮についてから連絡を取っておいたのだ。わざわざ電話じゃなくてもいいのに、と言えば電話のが楽なんだよ、と返される。
自転車に乗った彼の特徴を思い出す。そして簡単にわかりやすく言う。
「青い髪で、外ハネの子…」
「真波だな。真波山岳」
「真波、山岳くん…」
それが彼の名前。名前を知っただけなのにドキドキと、胸が高鳴る。
電話先からおい、と言われ琴音が返事をすれば黒田は嫌そうな声を出す。
「熱のこもった声出しやがって気持ち悪りぃ。恋してんのか、少女漫画みたいに恋する乙女なのか?」
「はっ!?ば、ば、バカじゃないの!?もう!じゃあね!ありがと!!」
琴音は電源ボタンを連打して電話を切る。
「こ、恋する乙女かぁ…」
そう、琴音自身もわかっている。恋する乙女なのだと。
彼の深い深い、海のような青に魅せられて。恋に落ちてしまったのだ。
落ちた、というよりその海のような青に溺れてしまったかのような。そんな感覚。
「恋って怖い…」
そう思いながら彼女は明日のことを考えるのであった。
2018.11.21
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