最悪で最高な日/手嶋


今日は最悪な日。占いは最下位、髪型は決まらない。コンタクトが見つからないからクソダサ眼鏡。


ダメな日ってとことんダメなことばっかりだから外に出たくないけど学生だから学校に行かなきゃいけない。


すでにゆっくり歩いたら遅刻する時間で、朝ごはんも食べずに家を飛び出した。
そして家に出た瞬間に悪いことは起きる。

「よお、名字。珍しいな」

なんでこんな日に限って朝一に出会うんだと名前は頭を抱えたくなる。

この男、手嶋純太は名前の家のお隣さん、そして好きな人だ。

「手嶋、なんでいんのよ…」

顔を隠すように下を向き、変な髪を誤魔化すように頭を抑える。

「いやぁ、昨日青八木と話してたら盛り上がってさ。そしたら寝坊しちまった」

「そうなの、さっさと行ったら?」

いつものバッチリ決めた格好で会うならもっと愛想よく、かわいくしたかったが今のこんな格好で彼と1秒でも一緒に居たくなくて冷たく言う名前。
だが手嶋は笑って彼女を誘う。

「せっかく会ったんだから一緒に行こうぜ?」

こんな格好で一緒に行くなんて出来るわけなくて、名前は一言返す。

「やだ」

「ひっでえな」

「じゃあね」

「待てって」

名前が早足で歩く横をロードバイクを引きながら歩く手嶋。
それに乗ればあっという間に学校に着くのだからそうすればいいのに手嶋はそうしない。
名前は耐えきれずに走り出す。引いて歩く彼は追いつかない、そう思ってだ。

しかし今日は彼女にとって最悪な日なのだ。
走り出してすぐに足を挫き、彼女は痛みにしゃがみこむ。

「つっぅ…」

「おい!大丈夫か?」

すぐに追いついた手嶋に平気だし、と強がりを決めて立ち上がろうとしたが痛くてそれは出来なかった。

「大丈夫じゃねぇじゃん」

「…いい、帰るから大丈夫だもん」

ふい、っとそっぽを向く名前。わかったよ、と手嶋が言うのでホッとしてると手嶋は自分の自転車を担ぎ自宅の方へ走り出す。
そして自転車を置いた手嶋はすぐに名前のもとへと戻ってきて彼女を抱き上げた。

「はっ!?ちょ、なにすんのよ!?」

「怪我人置いて行けないっつうの」

「大丈夫って言った!!」

「あー、ちょーっと黙ってような」

そう言った手嶋は名前の唇にキスをした。
驚きのあまりピタリと動きを止めた名前。

「…あー、わり…」

謝る声ではっとした名前は顔を赤く染め、手嶋を睨みつける。

「い、いい、意味わかんないんだけど!?な、なんで!!き、き、き!!」

文句を言おうと口を開くがキスをされた事実に喜びと驚きとショックといろんなものが混ざって口が回らない。
手嶋は別に適当な気持ちでしたわけじゃねぇから、と目を合わせずに歩いたまま言う。

「ちゃんと、好きだからした」

付き合ってもないのにこんなことしてごめんな、と謝るが名前は嫌なわけじゃなくて返事に困る。

「ほら、家着いたぞ」

そんなことしてる間にあっという間に家に着いてしまった。手嶋はゆっくりと名前を下ろす。

「ほんとにごめん。…じゃあな」

そう言って去ろうとする手嶋。
ここで、このままでいいわけない。

「嫌じゃないから!!わ、私だって好きだもん!!」

恥ずかしいし、もっとムードあるときに言いたかった、ほんとに最悪な日だ。でも。

「…、好きだよ」

「うん…」


最悪だけど、最高の日だ。

2018.3/29


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