なんて魅力的な世界!
「こんにちは、先生」
真夏の、それも昼過ぎ。
突然彼女はやってきた。
「え………なに?」
「先生、もうお体の方は大丈夫なんですか?」
「あ?あぁ、まぁな。」
彼女は自分が受け持つクラスの生徒の姉で、他校生。だけどいつの間にかクラスに混じっていた。といっても放課後の馬鹿騒ぎに入っているだけなのだが。
それでも他の生徒に比べ会話を交わす数は多い。
気付けば隣にいて、話す。そんな関係が続いていた。
だけどそれとこれは別だ。
一体彼女がここまでする理由はあるのだろうか?
その疑問をぶつける間もなく彼女は台所へと向かっていた。
「ちょ、ちょっとちょっと何してんの。」
「ダメです、先生。まだ顔が赤いですよ?熱、下がってないのでしょう?」
「いや、まぁ…うんそうだけど、そうじゃなくてね」
「寝ていて下さい。すぐに出来ますから。」
そう笑顔で言われては言い返せない。熱のせいもあってか働かなくなった頭でふらふらとベッドへ向かいダイブした。
いつの間に眠り始めていたのだろう、弱い揺れと誰かの声で目が覚めた。視線を上げればハニーブラウンの髪をした少女。
そこで急激に意識が浮上した。
「先生、おかゆできました。少しでもいいので食べて下さいな。」
「ん……おう、」
上体を起こし茶碗を受け取ろうとしたが手は中を掻いただけだった。
「……あ?」
「先生、あーんして下さい。」
そう言って差し出される蓮華を持った右手。一瞬思考がショートした。が、首を振り現実に戻る。
「え…?」
「…あ、す…すみません…!!つい、いつものくせで…」
彼女も無意識だったのか。
そういえば彼女の弟や幼なじみ達にとって彼女は母親のような立場にいたと聞いた事がある。
頬を赤く染め俯く彼女になんだか愛しさをおぼえ引っ込められたその右手を掴み蓮華とその中のお粥を頬張る。
「え、えっ?」
「………うめぇ。」
「え、」
「もう一口、もらえる?」
流れに着いていけていなかった彼女も、段々理解してきたようで。ますます頬を赤くしながらそれでも微笑んでまた掬った。
「…先生、押し掛け女房みたいだとか思ってます?」
「……確かに。」
「これからも、押し掛けていいですか…?」
控えめに聞く彼女を引き寄せ耳元で囁く。
「いっそ恋人になってみない?」
なんて魅力的な世界!
(先生、大好きです。)(総一郎君と多串君が面倒だな)
090819
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