手を伸ばしたくなる20題
枕に埋めた額
【泣かないでよ、マーティ………】

ぶわ、っと毛が逆立つ。
思い出しただけなのに。
ホントあの人は困った人だ。
自分がどんな表情してるかなんて気付いてない。
どれだけ私が貴方を好きか、全く理解してないんだ。

悲しそうな声。
哀しそうな顔。
痛そうで苦しそうで貴方の方が泣きそうだった。

そんな表情されて私はどうにかなってしまうかと思った。
どれだけこの人を好きになれば良いのかと怖くなった。
綺麗な人。
心も顔も綺麗で、秘密主義で、照れ屋で。


最初は城と、“ちょっと困らせてやろう”ってだけだった。
手を繋ぐのをあっさり断られた腹いせだ。
城もアレク苛めは嫌いじゃないから直ぐに乗ってくれた。
基本的に私と城には甘いアレク。
たじたじになって、なんだかとっても可愛かった。
なのに。
あの表情は反則だ。

「………アレクの癖に!」

どれだけ私を好きにさせれば気が済むんだ。

「………えっと、マーティ?そこ、俺のベッド…」
「うっさい!」
「………はい」

城と二人でベッドを占領中。
こんな事で許されると思うな、アレク!
そう思いつつもアレクの枕に埋めた額は上がらない。

「………城?」

すり、っと猫の様に隣に寝そべる城が擦り寄ってきた。
視線を合わせても特に言葉は無い。
でも何と無く言いたい事は分かって、微笑んだ。

「………うん」

私は城の腕に頭を預けて瞳を閉じた。
城も私の額に頬を寄せて身体の力を抜く。
このまま眠って、眠って、精一杯困らせてから許そう。

大好きな人。
どうかあんな表情はもうしないで。


+++++
ホント仲良しなマーティと城。
困り顔は好きで泣き顔は苦手な、アレク大好きマーティ。


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