【泣かないでよ、マーティ………】
ぶわ、っと毛が逆立つ。
思い出しただけなのに。
ホントあの人は困った人だ。
自分がどんな表情してるかなんて気付いてない。
どれだけ私が貴方を好きか、全く理解してないんだ。
悲しそうな声。
哀しそうな顔。
痛そうで苦しそうで貴方の方が泣きそうだった。
そんな表情されて私はどうにかなってしまうかと思った。
どれだけこの人を好きになれば良いのかと怖くなった。
綺麗な人。
心も顔も綺麗で、秘密主義で、照れ屋で。
最初は城と、“ちょっと困らせてやろう”ってだけだった。
手を繋ぐのをあっさり断られた腹いせだ。
城もアレク苛めは嫌いじゃないから直ぐに乗ってくれた。
基本的に私と城には甘いアレク。
たじたじになって、なんだかとっても可愛かった。
なのに。
あの表情は反則だ。
「………アレクの癖に!」
どれだけ私を好きにさせれば気が済むんだ。
「………えっと、マーティ?そこ、俺のベッド…」
「うっさい!」
「………はい」
城と二人でベッドを占領中。
こんな事で許されると思うな、アレク!
そう思いつつもアレクの枕に埋めた額は上がらない。
「………城?」
すり、っと猫の様に隣に寝そべる城が擦り寄ってきた。
視線を合わせても特に言葉は無い。
でも何と無く言いたい事は分かって、微笑んだ。
「………うん」
私は城の腕に頭を預けて瞳を閉じた。
城も私の額に頬を寄せて身体の力を抜く。
このまま眠って、眠って、精一杯困らせてから許そう。
大好きな人。
どうかあんな表情はもうしないで。
+++++
ホント仲良しなマーティと城。
困り顔は好きで泣き顔は苦手な、アレク大好きマーティ。