第1章 アカデミー入学
02:「まぁ、一応確認だ」
(…誰か嘘だと言って……!!)

説明会場に着くと、先ほどの金銀コンビが席に座っていた。総合成績では彼らは5位以内だったので、一見普通に見えるのだが…

(コイツらもパイロットコースだったなんて!!)

総合5位以内なのだから充分に有り得る話ではあるのだが、できれば一緒に居たくなかった。実を言うと、先ほどの苛立ちはまだ解消し切れていない。
できるだけポーカーフェイスを保ちつつ、仕方なしに席に座った。

アスラン・ザラを先頭に、ツリ目、私、タレ目、ニコル、ラスティ。

(何か、私だけ不幸な席に見えるのは気のせい?)

そう、悲しい事に私は金銀嫌味コンビに挟まれてしまうという事態に陥っている。ツリ目など、私が隣の席に座ると信じられないモノを見るような目で見てきたのだ。どれだけ一発殴ってやろうかと思った事か。

(とりあえず、初日だから猫かぶっててあげるけど、次は絶対容赦しないんだから!!)

初日から問題行動など、論外だ。場合によっては成績に響くだろう。

(とりあえず、両隣の存在は無視! そう、無視に限る!!)

私がそう心の中で言い聞かせていた時、

「それでは、説明を始める……その前に……」

ファイルを持った教官の目と、私の目が合った。

「…アルテミス・ヴァル・ジェニウス……女……だな?」
「間違いございませんが、何か?」

教官の探るような視線に対して、私は挑むような視線をぶつける。まぁ、所謂ガン飛ばしってヤツだ。

(つか、女以外の何に見えるのかな。男か? この顔で男だと抜かす気なのか、教官よ)

言っておくが、私の容姿はそれほど悪くないつもりだ。美人かどうかは人の好みによるだろうけれど、コーディネイターに容姿が悪い人はいないだろう。何のための遺伝子操作だ。

(……もしかして、胸とか? どうせ普通胸ですよ。貧乳ではないつもりだけどな! ほんと想像すればするほど腹立つ教官だね…!)

今の私は少々機嫌が悪い。できればこれ以上、私の機嫌を傾けさせないでほしいものだ。
私の射るような視線を正面から受けて、教官はばつが悪そうに視線をスウィングさせた。

「あー…まぁ、一応確認だ。…部屋割り…なんかの時に…困らないように…な?」

(泳いでる。視線むっちゃ泳いでるよ教官。動揺すんなよ、これぐらいで!)

教官は、空気を変える様に一つ咳払いをすると、何事もなかったかのように話を進めていった。
その話は、事務的なモノではなく、八割方は教官の主観が入った、ただの説教。

(…このオッサン…これ以上ハナシを続けるようなら、殺っちゃっていいかな…?)

いい加減、説教からただの武勇伝に変わった話を聞き続けるのが苦痛になってきた頃、ようやく話に終わりが見えた。
そして私たちは説明会場に入って二時間。ようやく解放される事になる。

「終わったー! 死ぬかと思ったー!!」
「よく言いますね。ラスティは半分以上、寝てたじゃないですか」

部屋割りが書かれた紙と、その他の注意事項やスケジュールなどが満載したファイルをもらって、今は自分の手荷物と一緒に割り振られた部屋に向かっている途中だ。
ラスティは解放された歓びにひたりながら、『疲れた』と言ってアスラン・ザラに寄りかかっている。

「ラスティ、部屋に着くまで、この体勢でいるつもりか…?」

(…アスラン・ザラ…離れてほしいなら、そうハッキリ言わないと…)

「アスラーン! 俺を部屋まで運んでプリーズ!」
「……ラスティ……」

(ほら、ラスティはノリが良いタイプだから、絶対、弄られちゃうよ…)

私は、げんなりした顔になっている彼に向かって苦笑しながら言った。

「ザラ君、ラスティと同室になったのが運の尽きってヤツじゃない?」
「……はぁ……」

ため息を吐き出して、諦めたような表情をする彼は、不意に私に視線を向けて何か言いたそうにしていた。

「なに?」
「いや…その…」

ちょっと言い辛そうにしているアスラン・ザラを見て、ラスティはピーンと来たらしい。ニヤリとイタズラ小僧のような表情をした。

「アスランは、ザラ君≠カゃなくて、アスラン≠チて呼んでくれていいのにって言いたいんだろ?」
「……………ああ」
「え? そうなの?」

ラスティの意外な言葉に私は目を丸くして視線をさまよわせる彼を見る。

「じゃあ、アスランも私をファミリーネームで呼ぶの禁止ね? アルトでいいよ」
「わかった」

アスランはふわっと柔らかく微笑む。その笑顔の破壊力は素晴らしいもので、ちょっと幼さを残す彼の笑顔に、不覚にも私の萌えゲージが少し上がった。

(ニコルほどじゃないけど、アスランもヤバい! なんなの、この美形揃いは!!)

私が口元を少しだけ押さえていると、ラスティが笑いながらからかってくる。

「アルトー? アスランにもヒットしたのかー?」
「してない……私はニコルひと筋!」
「えっ!! アルト!?」

言うが早いか、私はまたもや、どさくさに紛れてニコルへと抱きついた。

「ああぁあのっ!!」
「可愛い! もぉ、ニコル超可愛い!! ずっとそのままでいてね!」
「はぁ……アルト、あの…」

ニコルが顔を真っ赤にしながら背中をぽんぽん叩く。私はその合図でニコルから少しだけ顔を離して彼を見つめた。

「嫌?」
「え、嫌……ではないんですけど……恥ずかしい……です」

さらに頬を染めながら視線を少しだけズラすニコルに、私はここがアカデミーだということも忘れて暴走しかけた。そのタイミングを見計らって、ラスティが手を伸ばしてくる。

「むっ」
「はい、そこまでー。ここ公共の場な。あんまり抱きつかないの」

ラスティが伸ばした手は私の顔までたどり着くと、むにっとほっぺたをつまみだした。

「ラスティだっへ、あしゅらんにだきひゅいてるー」
「俺は抱きついてんじゃないの。寄りかかってんの。そうだな、例えるなら俺は荷物扱い?」
「結構重いんだぞラスティ。そろそろ自分で歩いてくれよ」
「えー?」
「はぁ…」

ため息を吐きながらも、しっかりラスティの面倒を見てあげるアスラン。私はニコルからそっと離れ、そんな二人を笑いながら見ていた。
そして廊下の角を曲がろうとした私たちの前に、突如として陰が落ちる。

「?」

不思議に思って視線をあげると、例のツリ目が立ちはだかっていた。いきなりの登場に、私たちは思わず足を止めて彼を見つめることしかできないでいる。

「貴様がアスラン・ザラか…」
「そうだけど…?」

何と言うか、ものすごい闘志を燃やしている様子で、一方的な視線がイタイ。

「俺は貴様なんぞ認めん……覚えていろ!!」

(……イキナリなんなの? つか、言い逃げ? 幼児がキサマ)

言いたい事だけを叫んでその場を去ろうとしたツリ目に、いい加減頭にキた私は、持っていたファイルを彼の頭めがけて投げつけた。

「ていっ」

そして見事にツリ目の後頭部にヒットする。

「痛っ!! ……貴様、何をする?!」
「何って……持っていたファイルを投げつけましたが何か?」

角が当たればよかったのにと少し思ったが、仕方ないだろう。一応、一番軽いファイルにしてあげたのは私の情けだ。

「はぁ!?」

(いやいや、ソレはこっちの台詞だよ。今のアンタの行動に『はぁ!?』って言いたい!)

「だいたい何なのよ、さっきから? かまってほしいの? ねぇ、かまってほしいわけ? さみしんぼ?」
「何だと!? 黙って聞いていれば…」
「素直に仲良くしてくださいと言ってみろ、子猫ちゃん!」
「なぁにぃ!!」
「アルト!」

今回は火花が散る前に、アスランに肩をつかまれ止められてしまった。

「…アスラン…」
「もういいよ。ありがとう」

優しい笑顔で素直にお礼を言われ、私はぐっと押し黙る事しかできない。

(…別にアスランのためじゃないんだけど。個人的に腹が立っただけですけど!)

「わかった…」

仕方ないが、私はアスランの顔を立てて大人しく引き下がる。彼は肩に背負ったままだったラスティをどけて、ツリ目の前まで歩み寄った。

「今回は俺が上になったけど、これからどうなるかわからない。お互い頑張っていこう」

そう言って握手を求めたアスランの手を、ツリ目はパンッとはたいてしまった。

「誰が宜しくなどしてやるか! 貴様は必ず俺が倒してやるからな!」

今度こそツリ目は背を向けて走り去る。その後ろ姿を黙って見送っていたが、角を曲がって姿が見えなくなると、私はぽつりと呟いた。

「…私、アイツ嫌い。やっぱり重い方のファイル投げれば良かった…」
「やめとけって。……でもまぁ、仲良くできそうかって言われたら、イザーク次第だろうなー」

(…ラスティ、のほほんとしすぎ!)

「まぁ、アルトも落ち着きましょう。あ、そうだ! 今からアカデミーの中を見て回りませんか?」
「おっ! いいねー」
「じゃあ、部屋に一度行って、それからまた集まろうか」
「「さんせーい!」」

アスランがそう言うと、私とラスティはノリノリで賛成した。ニコルも笑顔で頷く。
ニコルがせっかく気を回してくれたのだ、ここはツリ目のことなど忘れるに限る。


そうしてこれから、私たちのアカデミー生活が始まろうとしていた。



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(あっれー? 皆どこ?? つか、ここどこ?)
(アルト!)
(!)
(迷子体質か? ほら、こっちだって!)
(ごめーん)


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