ザフトと地球軍の間で停戦がしかれ、両議会は平和への締結に向けて始動している。
エザリア・ジュール評議員が、ザラ派として検挙された後、イザークは軍人から文官に戻った。本来、彼はエザリア様の片腕として働いていたので特に問題もなく、エザリア様後のマティウス代表として今は評議会に名を連ねている。
ザフトに戻ったディアッカも、彼の護衛として傍に居て、私はというと…
「朝摘みの薔薇って、いい匂いしますよね! エザリア様!」
「そうだな、トゲには気をつけるのだぞ」
「はーい」
軍に在籍しつつ、たまに取る休みでエザリア様のお世話をしていた。
彼女の処分は保留中で、現在マティウスにある自宅にて軟禁状態。ついでに言うと一人息子のイザークは議会が忙しすぎて滅多に帰ってこれない。そんなイザークの様子を報告するという重大任務も兼ねて私はここを訪れる。
特務隊には在籍しているけれど、現時点で特に目立った任務も舞い込んでこないので、私もイザークの護衛任務についていた。
普段だったら半日しかない休みも、今日はディアッカが代わってくれたおかげで、一日ゆっくりとエザリア様の傍にいられる。
「夕飯は食べていくのだろう?」
「はいっ! ご迷惑でなければ」
「迷惑なものか……いつも、すまないと思っている」
庭で一緒に座りながら、お茶を楽しむ。エザリア様は私に苦笑しながら、おかわりの紅茶をいれてくれた。
「駄目ですよ。そこは、ありがとうって言ってくれなきゃ」
「……そうか……そうだな………ありがとう。アルテミス」
「どういたしましてー。あ、そうだ。聞いてくださいよ! この前、イザークがなんて言って議会と喧嘩したと思います!?」
「またか……次は誰だ?」
「えっと……」
などとイザークの軽い悪口もまぜつつ、彼の近況を報告する。
その報告をとても嬉しそうに聞いてくれるエザリア様は、とても優しい顔をしていた。
楽しい時間はあっという間で、夕飯を二人で食べた後、そろそろ帰ろうとするとエザリア様に引き止められる。
「今日は泊まっていっても構わないのだぞ? 部屋なら有り余っている」
「いいえ、でも……」
丁寧に断ろうとすると、不意に私の通信機から呼び出し音が鳴った。
エザリア様の顔が引き締まる。さすがに彼女も元評議員。今は政務に関わっていないとはいえ、なかなか身についた癖というものは直らないものだ。
「すみません」
「構わない、気をつけてな」
「はい!」
慌ててジュール邸を後にし、私は自分のエレカで通信を受ける。
「特務隊所属、アルテミス・ヴァル・ジェニウスで…」
【アルトー! 帰ってきてくれ!!】
「……認識番号くらい言いなよディアッカ……」
外部からの通信だというのに、ディアッカは認識番号も何もかもすっ飛ばして私に泣きついてくる。
【それどころじゃねぇんだって!! イザークの奴がまた……!】
「はぁ……今度は何?」
【例のヒゲのオッサンだよ!! 今にも殴り飛ばしそうなんだって!】
「あー………アレか………あのオッサン……この前も私が警告したのに………一回、イザークに殴られちゃえばいいんじゃないの?」
【怖ぇ事いうなって! マジ、ヤバイから!】
通信先のディアッカの顔が青ざめた。これはイザークも相当、本気でキているらしい。
「わかった、今すぐ行く。あ、…軍服じゃないけどいいのかな…?」
【俺が迎えに行くから!!】
「りょーかい。…今、マティウスだから、超特急で行く」
【マジ頼む!! って、わー!! イザーク待て待て待て待て!!】
ピッ
ディアッカの大絶叫で、通信は途切れた。
「……あー……間に合わない……かも?」
私は通信先の大混乱するディアッカの様子を見て、苦笑した。間に合えばいいなと思いつつ、内心では間に合わないだろうなと確信があった。その確信は、外れることがなかったのである。
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