きらきら輝く街並み
行き交う人は皆、笑顔。
誰一人として「戦争中です」という顔などしてはいない。
それでも確かに、ここから外≠フ空間では戦争が起こっている。このヘリオポリスで生活をしている者は皆「戦争なんて自分たちには関係ありません」という顔だ。
「……愚かしいね……」
私は一つ、侮蔑を込めた嘲笑を偽りの空に向かって放つと、また歩き出した。
いくら中立国だとしても、金髪紫眼は目立つ…ということで茶髪のカツラをかぶってみたのだが…慣れないせいか、多少の違和感がするのが拭えない。
(ちなみに、カツラ選びはラスティとニコルが喜々としてやってくれた)
髪は何とかナチュラル風味になったが、瞳は素のまま。カラーコンタクトを入れて瞳の色を変えようとしたけれど、どうしても巧くいかなかった。
(……だって、痛いんだもん…)ナチュラルに変装するならば瞳の色も変えた方がいいのだが、コンタクトを入れても目が開けられないのだから仕方ない。サングラスをすれば良いとディアッカは言っていたけれど、悪目立ちしそうだというニコルの意見で、結局、瞳だけは素で潜入するしかなかった。
そして今、私は偽造したIDを持ってヘリオポリスの工場地区に近いカレッジへと潜入している。
人気の少ない廊下を歩きながら、私はふと、昨日の作戦会議の会話を思い出していた。
『調査部隊の報告によれば、オーブのコロニー・ヘリオポリスの軍事工場内で、密かに製作された地球軍の新型兵器G<Vリーズが眠っている』
『Gは全部で六体。この全ての機体を完全に地球軍側に渡る前に奪取する事が今回の作戦だ』アデス艦長の声が脳裏に小さく蘇っては消える。
そして…
『アーティ、素敵な招待券を渡しておいで』強く揺れる、兄様の声。
迷子体質の私のために兄様が用意してくれた地図はとても分かりやすかった。
そのおかげで迷うことなく私はとある人の研究室へ行くと、ドアを戸惑いもなく開けて中に入る。
「あ、遅いぞキ………あれ? 君…誰?」
色付きメガネの優男が、私を見て驚いた顔をしていた。
(そっか、ここってあんまり部外者訪れないんだ? っていうか、人少なっ…あんまり目立ちたくないんだけど…仕方ないなぁ…)中には学生と思わしき人が数人。本当に片手で足りるほどの人数で、入口に一番近いせいもあり私はしぶしぶ色付きメガネの優男に話しかけた。
「突然すみません。カトウ教授にお会いしたいんですが」
「教授? あ、ちょっと待って」
その言葉を聞いて色付きメガネは、私をその場に残して奥のドアをドンドン叩きだす。
「きょーじゅー! 教授ー!」
結構強めに叩いているのに、中からの返答はなかった。可哀想に、あの慣れた叩き方を見ていると今に始まった事ではないようだ。
なかなか返事が貰えないようなので、その間に視線をスッと泳がせ室内を観察する。
(ロボット研究? ……なるほど……ね)これなら、Gの開発に自然と加わる事ができてもおかしくないわけだ。それに学生たちをカモフラージュとして使う事もできる。
「あ、ねぇ、君……」
「はい?」
不意に呼ばれて、思考が浮上した。
(ああ、やっとお返事もらえたのか)私が振り返ると、そこには写真で見た顔が私を見下ろしていた。
これがカトウ教授だ。
「何か用かね?」
「はい。私、以前からカトウ教授の理論に大変感銘を受けておりまして…」
「ほぉ…」
その言葉に多少気分を高揚させたカトウ教授は、色付きメガネを作業に戻らせると、私に向き直った。
「それで、今日の用向きは?」
「はい、ぜひ教授に見ていただきたいモノがあるんですよ」
「ふむ?」
「ほら、以前に教授がお手伝いなさった、アレです。本当に、この論理……素晴らしいですね?」
そう言いながら、カトウ教授以外には死角になるようにして雑誌のページを開いてみせる。
もちろん中には…
「こ……れは……」
「カトウ教授。ぜひ、お話……聴かせてくださいますよね?」
私はニッコリと微笑んだ。
何の変哲もない雑誌の合間に、一枚の写真。写っているのは、G兵器とこの男。隠し撮りだけれどハッキリ写るその姿に、目の前の男は絶句する。
「……来なさい……」
「ありがとうございます」
私はスッと、雑誌を閉じた。
「アーガイル」
「はい?」
あの色付きメガネは、アーガイルという名前らしい。呼ばれてすぐに教授の元に近寄って来る。
「この研究データを、ヤマトに渡しておいてくれ」
「何です?」
「いつものやつだが、提出は早めにするようにとな」
「わかりましたよ」
色付きメガネ(もう面倒くさいから、メガネでいいかな)は、面倒くさそうに受け取った。
(あの中身気になるけど、とりあえずは任務しなきゃね。あんまりのんびりしてる暇なんて実はないし…)そう、後もう少しでG奪取作戦が決行されてしまう時刻だ。このメガネも、ゼミが工場地区に隣接しているから巻き込まれる事になるだろう。人生最後の作業を思う存分するといい。
その後すぐに教授は私を促して、彼のゼミを後にした。
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