第11章 嘆きの華
76:「親友、なんでしょ?」
「アルト…」
「兄様って……クルーゼ隊長が…?」

静かになったエターナルのブリッジで、俯いている私に静かな疑問が降り注ぐ。
ディアッカがつぶやいた兄様という単語に、私は無意識に反応して、ようやく顔を上げた。

「アルト…まさか…貴女は…」
「兄様……」

私の目から溢れる涙は、丸く小さな固まりになって宙を漂う。
その隣でラクスは私に手を伸ばそうとしていたが、私はその手をはじいた。

「!」
「……触らないで……」
「アルト……」

静かな闘気が、私を包んでいく。

「………許さない………」

そう小さく私が呟くと同時に、エターナルの全ての電源が落ちた。

「なっ!! 何だよ!?」
「なんだっ!? どうした!」
「わかりません、急に……!」
「落ち着いてください、みなさん、とりあえず落ち着いて原因を探ってください。アルトたちは動かないで…」

急に全ての電力が絶たれた事で、ブリッジも何もかも暗くなり、周りが見えない。その中で自由に動けるのは私だけだった。

…電力供給や何もかものシステムをシャットダウンしたのは、私だから。

「……ラクス……エクリプス……返してもらうよ…」
「!! アルト……?」

そして私は軽く床を蹴って、体を反転させる。

「ちょっ、待てってアルト!」
「離せ…!」
「ぐっ!!」

隣を過ぎ去る私の腕をつかんだディアッカは、うめき声を上げて後方に飛んだ。
私が蹴りあげたからだ。

「アルト!? 貴様、何を!」
「……邪魔する奴は、全員、殺すよ」
「アルト………おい!! アルテミス!! 待て貴様!!」

それだけ言うと、私はブリッジを出ていった。電力が通わないブリッジを出られたのは、私がエターナルの親権を握っているからに他ならない。今、この艦は、私が新たな命令を出さないかぎり……もしくは、相当私が離れない限り、再び動くことはないだろう。

私が出ていった後のブリッジの扉を、ひたすらガンガンたたき続ける音が聞こえたけれど、完全無視でひたすらに格納庫へ向かう。ここでも混乱の渦ができていた。

「……エクリプス……起きて」

ブンっと小さく音を立てて、エクリプスの瞳に電力が通う。暗闇の中に紫の光が浮かび、整備班と思わしき奴らがソレに気づいて声をあちこちから発していた。

「…コックピット、開けて」

そっとエクリプスのそばまで寄った私は、エクリプスのコックピットを開錠する。静かにコックピットに戻ると、私はたちどころに機体のOSを立ち上げ、エターナルのハッチを解放した。横取りした親権で。

「おい、誰か知らんが、何をしている!! どこに行く気だ!!」
「邪魔……踏むよ」

まとわりつく奴らを振りきって、エクリプスはハッチから出ていく。
私が向かう先は、ただひとつだ。

「……ジェネシス……兄様の……願い………」

ヤキンの前に立ちはだかるザフト兵は、私が友軍機だとわかっているので道を開いてくれる。
進んでいる間に、ヤキンからは小型輸送艦がいくつも飛び出してきていて、この基地は放棄されたのだとわかった。

「…兄様が死んだから…かな……それとも……」

(議長に何かあった?)

その予感は的中していた。
私がヤキンについた時、すでに中は空っぽで、アスランが画面に向かって悪態をついていたところだった。

「……何をやっても無駄だよ、アスラン」
「!!」

私が一声かけると、アスランが勢いよく振り返る。

「アルト…!」
「誰だ、お前!」
「…初めまして…かな、オーブの仔獅子……カガリ・ユラ・アスハ? ……でも今は正直、自己紹介とかしてる暇ないから」
「何っ!」

彼女が私に向けて銃口を向けると、それをアスランの手が制した。

「アルト…今、俺たちは君と争っている暇は…」
「それは、こっちも一緒……」

コントロールルームでは、うるさいくらいに警報が鳴り響いていた。
その中を私は銃を捨てて、ザラ議長の遺体へと近づいていく。バイザーも面倒くさいから歩いている間に取り払った。

「何を…」

アスランとカガリは、私の行動を静かに見ていながら、銃を撃とうとはしない。私に戦う意志がないと、わかっているようだった。

「ヤキンの自爆に、ジェネシスの発射が連動してるんでしょ」

話す間も、議長の懐を探る手を止めない。

「何故、それを…」
「これ」

チャリ…と音を立てて光る金の鍵。

「それは…?」
「ヤキンの自爆プログラムすらも書き換えるための、最期の鍵」

私は立ち上がり、その鍵を見つめる。

「この鍵を、そこに差し込んで、ランタイムで変わる28ケタの暗証番号を打ち込んだら、ヤキンの自爆も、ジェネシスも止まる」

私は淡々と言った。

「なんで……何でお前が、そんな事知ってるんだ!?」
「カガリ…」
「信じられるか! コイツはザフトなんだろ!?」
「…俺も、ザフトだったよ」
「アスランは…!」
「ねえ、モメてるとこ悪いんだけどさ……止めるの? 止めないの? どっち?」

私はため息を吐き出しながら問いかけた。

「止めるに決まってるんだろ!! さっさとしろよ!」
「……信じてんじゃん……」

さっきは信じられないとか言っておきながら、この反転ぶり。私はハッキリ言って彼女が嫌いだ。キラ・ヤマトと同様に。

「アルト……俺も聞きたい……君が何故……」

カガリと話させると、埒があかないとわかったのか、アスランがカガリをなだめて私に向かって言った。
私は二人の間をすり抜けて、まっすぐに議長が座っていた席にあるコントロールに向かう。

「……ヤキンとジェネシスのシステム開発……私がしたから」
「!!」
「なっ!!」
「って言ったら、アスラン、キミは私を討つ?」
「アルト……冗談を言っている場合じゃ…」
「冗談じゃないよ……開発したのは、私」

そう言って、鍵を差し込む。


『終焉の鍵、認証します。ローディング中……』


機械的な音声が、鍵の正否を見るために全ての情報を照会している。その間に私はアスランを振り返った。

「そうだ、アスラン。キミ、こんなとこでのんびりしてていいのかな」
「えっ!」
「キラ・ヤマトが、危ないよ」
「キラが!?」
「お前っ! キラに何かしたのか!?」

いちいち突っかかってくるカガリを私は完全無視して、アスランだけと話す。

「彼は、クルーゼ隊長と戦って、勝った」
「キラが……」
「…でも、キラ・ヤマトだって無事じゃないよ。コックピットにビームくらって、機体は大破していないけど、今は戦闘宙域を武器もなしでさまよってんじゃない?」
「なんだって!?」

アスランが驚愕に目を見開く。

「下手したら、ザフト軍に機体を大破させられてるかもね。彼はキミたちの母艦から遠い場所で戦ってたみたいだからさ」
「お前、キラを見捨ててきたのか!?」
「……言っておくけど、私を敵だって最初に言ったの、キミでしょ。カガリ・ユラ・アスハ。……なんで敵軍がわざわざ自軍の隊長を大破させた奴を助けなきゃならない? バカ?」
「なっ!!」
「なら……君は何故、ここに…」
「………ヤキンの様子を見て、ただごとじゃないなと思ってね。議長の様子を見に来たんだけどさ……亡くなってるんだもん……これじゃ、ジェネシス撃つ意味ないでしょ。だから止めるの。……なんか、悪い?」
「いや……ありがとう……アルト……」

アスランが私の言葉に心底感謝しているように言葉を吐き出すので、私は眉根を寄せてアスランをにらんだ。
そして顔を見られないように、後ろを振り向く。どうやら鍵の読み込みは終わっているようだった。

「アスラン、…少年を助けにいってあげたら?」
「アルト…!」
「親友、なんでしょ?」
「すまない……だが、ヤキンを止めるだけじゃダメだ。ジェネシスを破壊しないと…!」
「あー……あれね。無理だよ。あれに自爆機能はついてない。ここのコントロール、結構壊れててさ…ヤキンの自爆シークエンスを解除すんので手いっぱい。フェイズシフト装甲すらも消せないや。……エネルギー切れもないしね。あれ、核で動いてるから」

私は淡々と言いながら暗証番号の照会をする。ランタイムで変わるので、探すだけでも一苦労だ。

「なら、そっちは俺がなんとかする……カガリ、行くぞ」
「って、え!? コイツ一人残すのか!?」
「カガリはキラを助けてくれ。俺はなんとかジェネシスを破壊する……ほら、時間がない。…それに、俺たちがここに残っていても…アルトの邪魔になる」

先ほどから私が小さく舌打ちを繰り返しているのが聞こえたらしい。実を言うと、会話をしている間に三回はパスワードの照会に失敗していた。

「さすがアスラン…話が早いね。邪魔だから出てって」
「ああ……頼んだぞ」
「ん」

生返事をして私は今度こそパスワードの照会をした。
背後からアスランたちの気配が消える。そっとモニターを確認すると、ちゃんとジャスティスとピンクのモビルスーツは、ヤキンを出ていくところだった。その事態に、ひとまずため息をもらす。
安堵のため息を。

「…あー……アスランがしっかり私の手元見てなくてよかった……とりあず、アスランがジェネシス破壊する前にやらなきゃね」

私はようやく照会したパスワードを入力した。


『……パスワード照合。パスワード照合……確認しました。ルナモード発動します』


終焉への道が、いま、開かれる


NEXT→

(兄様……これで……全部終わるよ……やっと…)


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