第11章 嘆きの華
74:「それだけ軽口たたければ」
先に動いたのは、地球軍だった。
ジェネシスの砲針、照準ミラーブロックは所定の位置に納まり、いつでも発射可能状態。次の目標は、月面プトレマイオスクレーター…地球軍の基地だ。

「軌道上のザフト軍は退避ね……ハイハイっと」

私は本部よりの入電に従い、軌道上より退避する。ついでに軌道上に地球軍の戦艦をひとつ、誘導しておくことにした。

「これで、一個終わり。……まだ来るかな?」

私は辺りを見回して他の地球軍の艦を探すが…

「あ、時間切れ」

ジェネシスが撃たれてしまったようで、私はエクリプスの機体性能を生かしてすぐに退避する。

「わーお。本当に一掃だねぇ……これで終わるかな……地球軍の方は…」

私はジェネシスが撃たれた軌道を目で追いながら、ちょこまかとまとわりつく地球軍の機体を撃ち落としていく。

「ここで引かないと…次は地球を撃つよ……地球軍さん?」

しばらく戦場を眺めていたけれど、どうやら彼らに退避という言葉は通用しないようだった。
すると、地球軍の動きが慌ただしくなる。

「え……あれって……!」

大量に出ていった機体をアップにすると、その機体の腹部分には、核があった。

「うっそー……まだやんの!?」

兄様の言った通りだった。
彼らは、繰り返す。全てを滅ぼすまで、と。

「…仕方ないな…」

そして私は彼らが向かう先……ヤキンの前まで下がることにした。
今プラントの方向……ジェネシスには兄様が居るのだ。絶対に落とさせるわけにはいかない。

「絶対、落とさせない!」

そうして私はエクリプスのマルチロックオンを展開させる。画面上に映る核爆弾をロックすると、躊躇うことなく引き金を引いた。
次の瞬間にはエクリプスの砲台が全て光り、その先の核を狙う。全てとはいかずともある程度命中すれば、近しい場所を飛んでいる他の爆弾も誘爆させることができるはずだ。
案の定、核はプラントに到達する前に、その特有の光を放ち消えていく。

「まだあるの!?」

安心しているのも束の間、視界の端を通り過ぎようとする核に、私はすかさず再びマルチロックオンシステムを作動させようとして、とある事に気づいた。

「!」

私がロックをかけた後、すぐにその点滅が消滅するのだ。
目の前では、紫の光が膨らんでいく。

「…アスラン…?」

(それとも、少年?)

彼らは戦争を止める…と、言っていた。だからプラントに放たれる核を止めるのだ。同様に、地球に放たれるジェネシスも止めにきている。

「…そんなんで…戦争なんか……終わらない、よ…」

私はそう呟きながらも、機体をさらに核爆弾に向けて進めて、全ての核を打ち落とす。
すると画面の端に、デュエルとバスターが映っていた。

「お、居るね……本当に前線に……」

イザークの隊は後方だったはずなのだけれど、彼の隊が見あたらないということは本当にイザークだけ先行して来てしまったらしい。
まさか本当に居るとは思ってなかったから、少しだけ驚いた。
しかし私は、次のイザークの行動にさらに驚くことになる。

「え……!!!!」

彼は、オーブのモビルスーツを、かばったのだ。地球軍の新型の攻撃から。

(あのピンクの機体……肩のマークからいってオーブの仔獅子だろうに…なんでイザークが…!?)

「ちょっ、イザーク!?」
【なんだ!】
「いや、なんだ、じゃなくて…何して…!」
【あれは俺の相手だ! 邪魔するなぁ!!!】

そう言うとイザークは、地球軍の新型に突進していく。
大きな鎌を持った緑の新型は、イザークの放つビームに防御の盾を展開する。それからまっすぐに突進してくるデュエルにビームを浴びせた。

「イザーク!」
【イザーク!】

私とディアッカの声が重なった。
デュエルは爆煙をあげながら機体が見えなくなる。

「……いざっ……イザーク!!!!」

一瞬、よぎる最悪の結末。
私は全身の体温が一気に下がっていくのを感じて、身体が凍り付いてしまったかのようだった。

(う、うそ…だよね!?)

だが次の瞬間、その煙からさらに突進していく機体。…デュエルが現れる。
二対のビームサーベルで大鎌を切り裂き、まっすぐコックピットを貫いていた。そして地球軍の新型は、大破する。

「あ………危なっかしいのよイザーク!! まぎらわしいことしないでよね!!」
【うるさい!! 貴様よりマシだ!!】

そういうと、彼は地球軍の艦隊を狙いに機体を反転させた。

「なんなの…」
【冷や冷やさせやがって……でも、イザークは強いぜ、アルト】
「うるさい!! そんなのわかってるよ!!」
【おー怖……お前、戦場に来るとホントにイザークと口調が似てくるよなぁ】
「ディアッカ! 無駄グチきくなら今すぐここで沈めるよ!」
【勘弁してくれよ。俺、お前とやりたくないんだって】
「なら、散れ!」

私はディアッカの後ろの地球軍が操るMAを沈めると、すぐに機体を反転させて他の雑魚を一掃しにいく。

「…ってか!! アスランとキラのミーティア……反則的じゃない!?」

本来ならば、エクリプスにもミーティアが装備できる。が、悲しいことに、エクリプスのミーティアは、エターナルにあるのだ。取りに行かねば装着できない。
私はそんな手間をかけるぐらいなら、艦隊は2人にまかせ、細かしい雑魚を一掃することに専念した。そっちの方が機動性があるから。

「ちっ…! この……数だけ多い雑兵どもが! さっさと散れ!」

次、いつ核爆弾を抱えた部隊が来るかもわからない。それならばいっそ、全滅だ。核を打ち込む余裕すら与えてやらない方が早い。
私は未だかつてないほどに、本気を出して地球軍を次々と撃ち落としていった。

「雑魚が消えたら次は、クライン派…」

私は口の中で次の予定を繰り返す。
クライン派もザフトも頑張ったおかげで、だいぶん地球軍の雑魚が減った。

ふと見ると、地球軍の新型……アークエンジェル級が沈んでいる。望遠レンズがとらえた映像では、勝ち残っているのは足付きだ。

「!! …このままだと、ヤキンが…!」

クライン派は、必ずジェネシスを落としにくる。私はそう思って機体をヤキンに向けようとした時、目の前に地球軍の新型が向かってきていた。

「コイツ…!」

投石型と、砲火型。二人の攻防に挟まれ、私はとりあえず舞うように避ける。
コイツらは、アスランやキラを執拗に狙っていたけれど、相手は誰でも良いらしい。

「アスランたちなら無理だけど、私なら大丈夫って事!? 舐められたね…私もさ!」

手加減するつもりはない。私はビームサーベルを取り出すと、機体を二人の頭上に舞い上がらせる。
砲火型は執拗に私を狙ってくるし、投石型の奴は届かないとわかっていても武器を投げてきた。

「…甘い」

上へと向けていた機体を、ふいに反転させ、まるで重力があるかのように落ちる。
二人の機体を、すれ違いざまに私は切り裂いた。

砲火型の奴には、両肩に乗せた砲火台を。投石の奴は足を。そして一気に私はエクリプスの火線を解放するのだった。

普通の兵ならば、これで引く。変な物にかまっていられない私は、すぐにヤキンへと向かおうとした……だが、甘いのは私の方だったかもしれない。

「えっ!」

彼らは機体をそのまま操り、二人がかりでエクリプスの両肩をそれぞれつかんで引きずっていくのだ。

【ひゃっはー道連れだぜ!】
【あっは……はははあ……! 滅殺! めっさ!】
「うっざ!!」

もはや狂っている。
回線から聞こえる声は、正常な理性をともなった人の声とは思えなかった。
ぐいぐい引っ張られながらも、エクリプスの推力を最大限にふかし、私はなんとか二人の進行を阻む。

【道連れ、はっけーん!!】
「はい!?」

投石型の機体が、私から離れた。よく見ると、彼はイザークの乗るデュエルに戦闘をしかけている。

【お前、終わり】
「!!」

私がその映像に気を取られていると、エクリプスの右肩が爆発した。
砲火型の機体が、火を吹いたのだ。

「…自爆……!」

エクリプスは右腕をとられてしまった。

【アルトー!!】

イザークが叫んでいるのが聞こえるけれど、今はすごい衝撃で返事をすることができない。

【うおおおおぉぉぉ!! こんな奴にぃぃ!!】
「いざっ……!」

イザークはフェイズシフト装甲が落ちたバスターの高エネルギー収束火線ライフルを借りて、投石型の機体と相打ち…したように見えて、ちゃんと相手の攻撃は避けていた。
イザークの放ったビームは、相手を貫き、上空で霧散する。
同時にデュエルのフェイズシフト装甲も落ちていた。エネルギー切れなのだ。

「ちょ……二人とも……!」
【イザーク……お前、むちゃくちゃだぜ…】
【ふんっ! 貴様がトロイせいだ!】
「……それだけ軽口たたければ…元気か」

私は人知れず、ホッとため息を吐き出した。
無事だった。その事がとてもうれしいと感じたのだ。

【アルト!】
「え、なに?」

一人で安堵していると、不意にイザークが呼びかけてくる。

【エターナルに行くぞ!】
「え?」
【機体、損傷しているだろうが! 貴様の機体の整備はエターナル以外では本国以外にないんだろ!】
「うん…まぁ、そうだけど…」
【なら、さっさとエターナルに行くぞ!】
「え!? ちょっ……」
【俺の機体もヤバイし。いんじゃね?】

イザークの主張にディアッカが賛成する。私は即決できかねていた。

(いや、そんなハイハイ決めてるけど、エターナルって一応、敵艦…)

「えと…」
【ほら、手をかせ!】

迷っている間に残っている左腕をとられ、私はイザークに引っ張られながらエターナルへと導かれていった。


NEXT→

(移動してる間に、攻撃されたらどうすんの! 二人ともフェイズシフト装甲が解除されてるんでしょ)
(お前に任せるぜアルト)
(…私の左腕をイザークが離してくれないと攻撃すらできないよ。砲台の前にデュエルあるし)
(貴様、俺ごと吹き飛ばす気か!?)
(いや、どいてくれればいいだけじゃん…)


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