第10章 混迷する世界
69:「俺は結構本気だが?」
私がフレイの乗るポットに構っている間、イザークはエターナルとオーブの艦に向かっていて、すでに戦闘中だ。
…と思っていたら、誰かとにらみ合いの膠着状態だった。よく見ると、彼がにらみ合っているのは、バスターのようだった。

「…イザーク、何してんの?」
【アルト!】

とりあえずイザークに通信を開いてみると、彼の眉間のシワは、アスラン並に増えていた。
いや、今はイザークの方が上かもしれない。

「はぁ……ねぇ、ヤル気ある?」
【くっ…わかっている!】
「そ………私はないけどねー」
【なんだと!?】

驚くイザークをスルーして、私はポチポチ通信をバスターに開く。

「はろー、ディアッカ」
【アルト…!】
「生きてるねぇ。よかったよかった。……敵じゃなきゃ、もっとよかったのに」
【…その機体…】

通信先のディアッカは、微妙な表情をしている。当たり前かもしれないが。

「ん? ザフトの新型。アスランたちと兄弟機だよ」
【ザフトの情報を簡単に漏洩するな馬鹿者ぉ! アイツは敵だぞ!?】

ディアッカに軽く機体の説明をしていると繋ぎっぱなしだった通信先のイザークが怒鳴ってきた。

「うるさいなぁ。その敵とにらみ合いっこして、いっこうに攻撃しなかったのは、どこのどいつよ。ばーか! それにアスランが向こうにいるんだし、この機体の情報だってだだ漏れでしょー」
【なっ!!】
「それよりディアッカ。敵にまわっちゃったって本当ー? アルテミスさん、未だに信じられないんですけど?」

私はイザークを小馬鹿にした後、平然としてディアッカに話しかける。私の言葉にディアッカは苦笑をかえした。

【お前……いや、いいや。……そうだな、イザークにも言ったけど、お前たちの敵になったつもりはねぇ】
「ふーん…ディアッカもアスランと同じ事言うんだ?」
【…アスランから、ちょっとは事情聞いたぜ。見事に背中に蹴りを食らったってな】
「うん。思いっきり蹴った。でも、殴り足りないから今度あのデコに会ったらボコるってイザークと落ち着いた」

私はヴェサリウスの食堂でイザークと交わした約束をディアッカに伝えた。すると彼は通信先でぶふっと吹き出し、笑い出す。

【くっ…で……デコ……くっ……!】
「デコじゃん? あの見事なデコっぱちは、最高だね。コンテストあったら優勝するんじゃないかな」
【あるかよ……くっ……そんな……大会……】
「あったら、だよ」

爆笑を必死でこらえるディアッカに私は淡々と告げる。しかしそのやりとりに一番苛立ちを覚えていたのは他ならぬイザークだった。

【き、さ、ま、らぁ〜〜〜!! いい加減にしろよ! ここをどこだと思っているんだ!】
「戦場?」
【戦場】

私とディアッカで完璧なハーモニーを奏でてイザークに返答する。するとイザークの短い血管がブチ切れた。

【貴様ら、そこに並べ! 撃ち落とす!!】
「えー、軍規違反だよイザーク」
【落ちつけってイザーク】
【うるさぁぁぁい!!】

そうしてイザークは、デュエルのビームを乱射しはじめる。

「ちょっ、イザーク! 当たる! 当たる!」
【当たれ!! 馬鹿共!】
【冗談だって! 落ち着けよイザーク!】
【逃げるな! 貴様ら、この手で沈めてやる!】

私たちはイザークが放つビームをひょいひょい避けながら逃げる。
端から見れば、ただの追いかけっこで、じゃれ合いだ。他の人が意見をするなら、それこそ『何してるんだ貴様ら』という事になる。けれど、私はそれで良いと思っていた。

(…手加減しろって言ってたし。何よりバスターを引きつけてるからエターナルとかオーブの艦の守りは手薄になったよね)

ちらりと画面をオーブの艦に向けると、一生懸命オーブのMSがジンを退けている最中だ。本艦はヴェサリウス、ホイジンガー、フェルダーリンと主砲の嵐。
だが確実に追いつめているのはザフトの方だ。

(…ディアッカのバスターによる遠隔射撃は、結構めんどいし)

ディアッカの射撃精度はザフトの中でも結構な位にあるので、油断はできない。彼をこうやって私たちで足止めする事で、少なからずエターナルにも影響を与えていられるようだった。
その時、国際救難チャンネルで通信回線が開く。声の主は、捕虜返還として戦闘宙域に放置したフレイ・アルスターという少女から。


【アークエンジェル!! 私……私、ここ!!】


【なんだ?】
「…捕虜だよ…ほら、さっき放り出した」
【…アイツか…】

私たちはその場で追いかけっこを中断し、通信を聞いた。ディアッカが不思議そうな顔をするので、私は軽く説明をする。イザークの表情は明らかに、邪魔な奴だ、という感じだった。


【フレイです!! フレイ・アルスター!! 私!! サイ!! マリューさん!!】


彼女は必死になって、かつて自分が在籍していた足付き……アークエンジェルに助けを求めているようだった。ふと見ると、フリーダムの動きが完全に停止している。

(…お、反応あり? って事は…彼女の運命は、ヤマト少年?)

かつて足付きに在籍していた民間人という事は、ヤマト少年の友達という事だろう。友達がいるから地球軍に居る≠サう主張していた彼にとっては、大事な友達≠セろうし、回収は彼がするだろうと、私は思っていたのに…少年はその場で停止したまま動こうとしない。今まで相手にしていた地球軍の新型にいいように攻撃され続けている。それをなんとかしのいでいるのは、ひとえにアスランの助けによるものだ。
やはりアスランは優秀なパイロットである。


【やめて……もうやめてぇぇ!!】


「……あー……なんか、イライラしてきた」
【おいおい、アルト……お前、女嫌いなの?】

私が明らかに不機嫌な顔をしていると、ディアッカが呆れたように私に問いかけてくる。

「…ああいう、ウザイ感じのは嫌い。別に女の子が嫌いってわけじゃないよ?」
【自分の身も守れんような奴が戦場に居ること事態、間違ってるんだ】
「そうそう。それ、同感。……だから、守って!お願い!≠ンたいな奴が戦場に居るなんて……イラってしない?」

どうやらイザークも同様に苛ついていたみたいで、私とディアッカの会話に入ってくる。

【あー…女って、あれくらい…しおらしく生きるもんじゃねぇの? だから俺たちが守るんだろ?】
「バカ。戦場に出る覚悟もない奴がのこのこ戦場に出てきて足を引っ張るなんてウザイ以外のなにがあるのよ。まず、守る対象になんかならないね。安全地帯でピーピー鳴いてろ」

私が苛烈なほど毒を吐いていると、ディアッカの顔が若干ひきつった。

【…相当、苛立ってんのな…】

(苛立つ理由はそれだけじゃないんだけど。…兄様と一時とはいえ一緒に寝泊まりしてたからなぁ…私としては、処罰対象第一位なのよねー…)

心の思いを要約した一言を私は思わずぽつりと漏らす。

「…沈めちゃ駄目かな…」

その言葉にぎょっと驚いた顔をするディアッカと、なんだか納得しているイザークの二人分の瞳が私を見つめる。

【そうだな。今ならどさくさに紛れて流れ弾にあたる可能性もあるんじゃないか】
【あー確かに……って、待て待て待て二人とも! そっと銃口をそっちに向けんなっ!!】

私の言葉はスルーして、イザークの言葉に一瞬納得しかけたディアッカは、次に行った私たちの行動をダッシュで止めにかかった。

【お前ら、こんな時だけ気が合いすぎだぜ!】
「冗談だよ、ディアッカ」
【俺は結構本気だが?】
【イザーク!!】

ディアッカの額に汗が光る。本気でビームを放ちそうなイザークの前にバスターを移動させて、止めようとした瞬間。救難チャンネルの先に居る彼女は、決定的な言葉を放った。


【かっ…鍵を持ってるわ、私! 戦争を終わらせるための、鍵っ!! だから……だからお願い!!】


【鍵…だと?】

イザークの銃口が、そっとおろされた。その動作にホッと安堵のため息をもらしたディアッカは、くるりと後ろを振り返る。

【戦争を終わらせるって…ただ事じゃない感じ?】
「…そうだね」

私は二人の問いに確かな答えを返す事ができたけれど、あえて言わなかった。

地球軍の新型の一つが、彼女の乗る救命ポッドに近づきつつある。その後を、我を取り戻したかのように急いで追うフリーダムの姿があった。
残りの新型二機に攻撃を受けても、救命ポッドに近づく事をやめないヤマト少年。適当に相手をして遠ざけつつ…といったような考えがないのか、それともそれほど余裕がないのか。

(…なーんか…めちゃくちゃじゃない? アスランも苦労するなぁ……だから、やめておけばよかったのに……)

私はそっとため息を吐いた。通信先の二人にはわからないように。

(あー…あんな無防備に攻撃受けるから、地球軍の新型が追いついちゃったじゃない…)

その時、彼女の運命が決まった。彼女の願っていたアークエンジェルに帰れたのだ。ただし、かつて在籍していたものではないが。

(よーし、これで今回の目的は達成ね…後は……って!!)

私は回収されていく救命ポッドから目を離して、ふとヴェサリウスとエターナルたちの方に目を向ける。

「ちょっ……イザーク!!!」
【なんだ!】
「なんだじゃない!! ヴェサリウスが!!」
【なにぃ!?】
【は?】

私が焦って促すと、通信先の二人は慌ててヴェサリウスを見た。

【なっ!!】
【……………】

イザークは驚愕に目を見開き、ディアッカは押し黙ったまま眉根を寄せている。
ヴェサリウスは、エターナルとオーブの戦闘艦…クサナギの集中砲火を受けて、至るところから火を吹き上げていた。中央突破されたのだ。火を吹くヴェサリウスの上空を、二隻の艦が通過していく。

「!! 信号弾!?」
【時間切れ…みたいだな】

同時に足付きから帰還信号が放たれ、ディアッカが苦笑気味につぶやく。

【待て、貴様! 逃がさんぞ!】
「イザーク! 待って、今はディアッカなんかよりヴェサリウス!! あれじゃ、沈む!」
【くっ!! ……覚えていろ、ディアッカ!!】

私がディアッカよりヴェサリウスを優先した事で、イザークも事の重大さに気づいたようだった。慌てて私の後を追いかけてヴェサリウスへと機体を発進させる。

【…また、な……二人とも……できれば……次は戦場で会いたくねぇけど……】

ディアッカが通信先でつぶやいた言葉は、はっきりと私たちの耳に届いていた。


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(ディアッカ……変わってないね)
(アイツが簡単に変わるか! おかしくなったのは、脳味噌だ! アイツも、アスランもな!!)
(…そうだね…)


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