ヴェサリウスからジンと兄様たちが発進して、私もエターナルに向かって機体を進めていく。
「…イザーク…の、言ってた事が本当なら…」
私は出撃前にもらしたイザークの言葉が、信じられないでいた。
あれは…ディアッカだ…
バスターの乗り手は元々ディアッカだ。確かに生きているなら今も乗っているだろうけれど、問題は『クライン派についている』事。
「…ディアッカも…アスランたちと一緒…か…」
生きていると知って、嬉しいと思っても、とまどいは払拭できない。それはイザークも同じだろう。
「メンデルに来てたのは…ディアッカだったってわけだ。…めんどうくさ…」
どんどんクライン派に戦力が盗られていくのは、私としても歓迎はできない。
ここはやはりディアッカにも真意を聞いてみないと。
「仕方ないな……隊長」
【どうした】
私はため息を吐きだして兄様に通信を開く。
「バスターに乗っているのは、ディアッカだそうです」
【…生きていたか】
「…驚きませんね…予想通りですか?」
私は思ったより反応の薄い兄様に無表情で問いかけた。
【予測はしていた。彼が消息を絶った地点を考えるとな…まさかここまで予想通りとは思わなかったがね】
「なるほど…」
【アルテミス】
「…はい?」
やはり兄様の勘は外れない。私が再度それを認識していると兄様の声が固さを増した。
【今回は、手加減をしなさい】
「はい?」
兄様の言っている事がわからない。私は躊躇するなと言われると思っていたから余計にだ。
【『鍵』が届けばそれでいい】
「…届いた後は?」
【その時の状況にもよるが】
「…エターナルはどうするんですか」
【時期ではない。それはまた今度だ】
どうやら兄様の中で、まだクライン派と本気で渡り合う時期ではないという事らしい。
「あくまで、『鍵』の受け渡しだけに専念しろと?」
【邪魔者は、排除だ】
「…了解」
本当はあんまり納得できないけれど、私は従う他にない。もしかしたら、決戦の場はヤキンで…と決めているのかもしれない。せっかく作ったし。
私は兄様との通信を切って、行動を探索に切り替えた。
「…まともに相手をするなってんなら、足止めか…とりあえず暇だし、ディアッカでも探そうかな」
ジャスティスやフリーダムは、なにやら地球軍の新型の相手をしていて私の相手をしてくれそうにない。
なにより、彼らを相手にすると私の機体が損傷しそうで問題なので、今回は絡むのは避けた方がいいだろう。
ムウが操縦するストライクはどうやら発進していないようだし、ここはディアッカの乗るバスターを探して適当に時間稼ぎをした方がよさそうだった。
「えーと…『鍵』は……あ、いたいた」
兄様が出撃すると同時に放たれたポットには、フレイが乗っている。そのポットは戦闘区域から若干離れたところでピコピコ救援の光を放って漂っていた。
「…流れ弾に当たってもねぇ…かと言ってデブリに衝突もまぬけだなぁ…」
私は画面の端に映るポットの移動先を見て、しぶしぶエクリプスのビーム標準をあわせる。
「…不本意だけど、仕方ない」
そしてボタンを押した。
ズドォォン!
エクリプスの火力によってなぎ払われたデブリ帯。ポットの行く手を阻むものだけ私は排除していく。
「ん、こんなとこかな。さて、後はキミの運しだいだよ…キミの運命は、誰、かな?」
私は届かないと知っていてフレイに話しかける。
アレを発見して、捕獲するのは、クライン派か、地球軍か…それとも、戦火に巻き込まれるか。
兄様が望む、最大の賭が始まった。
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