「失礼しま…」
「答えぬと言うなら……お前も反逆者として捕らえるぞ!? アスラン!!」
(えぇぇぇぇ!?)いったい何が起こっているのか、私にはわからなかった。議長が銃をアスランに向けて激昂している。アスランは床に倒れ込んで議長を見上げていた。
「…あの……すみません、何してるんですか議長?」
「アルテミス!」
「はい?」
「このバカを拘束しろ!!」
「は?」
私はアスランと議長を見比べながら、入口にただ呆然と突っ立っていた。言われた命令の意味がわからない。
「あの……それが、新しい任務だと?」
「いいから、早くせんか!!」
「……はぁ……」
(命令する前に状況説明とかしてくれないんだ? 私、今、ここについたばっかなんだけど)私は不思議に思いながら、とりあえずアスランに近づく。そして彼を立たせて、こっそり聞いた。
「…ね、何したの?」
「…………」
「え、だんまり? そこ、黙っちゃうの?」
「…俺は…」
アスランが答えようとした瞬間、議長がデスクのボタンを押して、外にいた衛兵を呼びだす。
彼らはアスランと私を囲うように銃を構えて待機した。
(いやいや、衛兵さんよ。私にまで銃口を向けないでくれないかな!!)「あの、議長…?」
「アルテミス! 何をぼんやりしている! さっさとコイツに…」
「う……おぉぉぉぉ!!」
「ああああすらん!?」
議長が私に指示を出す前に、アスランは勢いよく議長に向かって走り出してしまった。
正直、私には目の前にいるのがアスランだと認識できずにいる。いつも模範解答しか出さない彼が、こんな突飛な行動に出るなど、誰が信じられるだろうか。
というか、もう誰でもいいから、ここに至った状況を説明してくれマジで。
「何っ?!」
議長が驚愕してアスランを見つめ、握りしめられた銃口がビクッと揺れた瞬間…
ズキューンッ!!
「うぐっ!!」
「アスラン!!」
アスランは当然のごとく、周りの衛兵の一人から銃弾をプレゼントされていた。衛兵が放った銃弾は、彼の肩口をかすめて、彼を再び床に倒れさせる事になる。
「殺すな!! コイツには、まだ聞かねばならん事がある!」
「はっ!!」
片手で背後の兵を制止して、議長は銃を持つ手を降ろした。
「コイツからジャスティスとフリーダムの所在を聞き出しておけ!!」
「……本気ですか?」
信じられない命令に、私がアスランを見ながら議長に尋ねると、彼は怒りも露わに即答した。
「当たり前だ!!」
「はぁ………わかりました」
命令となれば仕方ない。私も軍人だし、議長の命令に逆らうわけにはいかなかった。…軍人としての命令だから。正直言って、未だに状況がつかめないところがあるので、命令に従うしかできないのだけれど。
「多少手荒でも構わん!」
「…了解……じゃ、お願い」
「はい!」
多少手荒でも構わない。そんな許可を息子に下すとは思わなかったけれど、議長は本気だった。
私は衛兵たちにアスランを立たせるようお願いすると、静かに議長室を出ようとする。
「…見損なったぞ…アスラン」
「…俺もです…」
去り際にぼそっと呟いた議長に、アスランは心底悔しそうに呟いて、今度こそ議長室を出た。
両脇を拘束されながら議長室を出るアスランと、その先頭を歩く私に視線が集中する。
(大注目だねー…まぁ、仕方ないか……現議長の息子が反逆だもの。良いネタだ)私は内心でこっそりため息を吐いて、エレベーターに乗り込む。
「…とりあえず、護送車手配してあるよね?」
「はい。本部入口に」
衛兵の一人に尋ねると、彼はきびきびとした態度で答えてくれた。
「そう…じゃあ、私はそこまで護送しよう。そこから先は頼んだよ」
「了解しました」
事務的な対応をすませると、私はアスランの前に移動した。
エレベーターは静かに階下へと私たちを運んでいる。下にたどりつく間に、私にはどうしても聞いておきたい事があった。
「アスラン……キミは、私の…敵?」
「…わからない…」
「ふぅん……じゃあ、質問を変えようかな……何しに帰ってきたの? ジャスティスまでどっかやっちゃってさー」
「父に…父の口から直接…本音が聞きたくて…」
アスランはぽつぽつと話し出した。
「で? 真意を確かめてのご感想が、コレ?」
アスランはムスッとした顔で、私から視線をそらした。
「……はぁ……もうちょっと要領良く立ち回ってれば、ここまでならずにすんだのに…」
「…………」
「もぉいいや……とりあえず、獄舎でお泊まり決定だね。どうせジャスティスとフリーダムの所在…話す気はないんでしょ」
「………ない」
私にはだいたいの予想はついているが、その内容を報告しようかどうしようか、実は未だに悩んでいたりする。
兄様にも、まだ話していない。
(アスランの事だから、ジャスティスはヤマト少年の側にあるんだろうな…地球軍のシャトルで帰投したって事は、おそらく…大天使様のところにでも置いてきたってところ?)そんなやりとりをしている間に、エレベーターはすぐに私たちをエントランスまで運び込んでくれる。
本部入口の護送車は、彼を迎え入れるために大きく扉を広げて待っていた。
「さ、乗って」
「…………」
「アスラン?」
「…アルト…すまない…!」
「え!!」
アスランはそう言うと、私と反対側の衛兵を蹴り跳ばしてしまった。
「ちょ!」
「うぉぉぉ!!」
「えぇぇぇ!?」
蹴りあげた反動で私に回し蹴りをお見舞いしてくる。その衝撃を両手で受け止めた私は、エレベーターを降りてから拘束していたアスランの手を解いてしまった。
「しまっ!」
そのスキに、アスランは物陰へと走ってしまう。
「ちょっと…アスラン待って!!」
「もぉ!! 計画が台無しだ!」
私もアスランの後をすぐに追って走ると、私の後ろを一人の兵が他の兵を足止めする形で応戦していた。
だが、今はソレに気を取られている場合じゃない。私は先を走るアスランに大声で呼びかける。
「アスラン!!」
「アルト! わかってくれ!」
(わかって欲しかったら状況を説明しなよ!! わけわかんないじゃんかー!!)「あー!! もう!! 今は大人しく捕まっててよ!」
「無理だ!」
(親子そろって即答か!! 変なトコばっか似てるんだから…ホント!)そして、ついに私の短い堪忍袋の尾が切れた。
「このバカラン・ザラー!!」
そう言って跳躍すると、両手を後ろ手に拘束されているアスランに向かって跳び蹴りをくらわせる。
「ぐっ!!」
その衝撃で彼は建物の陰に倒れ込み、私もすぐその後を追った。
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(バカラン・ザラ……)
(バカラン・ザラ…!?)
(あ、アスラン・ザラのこと…だよな?)
(笑うな! 俺たちは今、銃撃戦やってるんだぞ!)
(敵、味方関係なくダメージを与えるなんて、恐ろしいパイロットだ…!!)
(いいから、応戦しろよ!)