第7章 それぞれの道
56:「…アスランが、帰国した」
アスランが地球へと単身で降下してから、プラント本国では波乱が満ちていた。

「…ラクスの演説…今日も放送してる…」

私は一人、アプリリウスの自宅でジャックされたラジオ放送を聞いていた。

「そして、お決まりのごとく途中で邪魔が入るか…」

彼女の放送を流していると思わしき局に軍が入り、放送は最後まで流される事なく途中で切れてしまう。
彼女は、それでも放送を止めない。

プラント側では、ラクスの放送に対抗するようにして、ジュール評議員がザラ派の代表として熱心に演説していた。映像を見る限り、イザークはどうやらお母さん似らしい。相当な美人だ。

「彼女を利用するナチュラル=cか」

議長もラクスの人気ぶりをよく理解しているらしく、彼女の人気を逆手にとって国民感情を宥めようとしている。

「皮肉だねぇ。いや、苦肉の策ってやつ?」

そう私が一人で呟いていると、議長からの密かな通信が入った。

「はい」
【首尾は】
「次は第七エリアの三番街、二階建てのアパートですかね」
【すぐに向かわせる。詳細を送れ】
「はいはい」

私は自宅のスパコンとにらめっこしながら、ラクスの足取りをリークしていた。彼女は隠れ家をいくつも用意していて、大半はダミー。その一個一個をしらみ潰しに占拠しているところだ。実のところ、彼女の足取りはつかめていない。

(…実は情報の大半がダミーってわかってて、流してる…なんて議長が知ったら、激怒するだろうなぁ…)

兄様の指示で、議長には本物と嘘の情報を織り交ぜながら報告している。兄様はまだ、彼女を捕まえさせようとは考えていないらしい。

(戦火は、広げられるだけ盛大に広げろ=c…か……兄様らしいね…)

議長がやっきになって探しているスパイ。そのスパイがまさか自分が一番頼りにしている部下だとは議長も思っていないだろう。兄様は地球軍にも情報を流しているのに議長はまだ気づいていない。

「クライン派でもなく、ザラ派でもなく。ましてや地球軍派でもない……か」

兄様が望むのは、全人類の滅亡。この戦争が長引けば長引くほど、双方の痛手が増えるのだから、喜ばしい事らしい。

「憎み合うもの全てを滅ぼして…後には何が残るのか」

何も残さない≠サう兄様は答えた。
議長が望むのは、ナチュラル≠フ全滅。反対に兄様が望むのは、人間≠フ全滅。
両者の望みは、合致しているようでズレている。

(ねぇ……兄様……それって、私も、兄様も……)

「……それが……兄様の……」

(私≠フ……望み?)

ぼんやりとそんな事を考えていると、切ったはずの通信が再び鳴り出した。

「はいはい……次は何ですか」

私はため息を吐きながら通信ボタンを押す。

「何ですか、議長」
【すぐに本部に来い】
「はい?」

(例の建造物のプログラムも、エクリプスの性能実験も終わった。クライン様も暗殺して、後はラクスだけ…でしょ? 何でここで私に本部召集?)

兄様からの召集は受けているが、それは明日だ。今日ではないはずなのだが。

(今日の夜、エクリプスを全速力ですっ飛ばして兄様の隊と合流する予定なんだけど……予定が早まったとか?)

そんな疑問を抱きながら私は首をかしげて議長を見る。
最近の議長は、眉間のシワが常に刻まれているような表情を貫いていた。そのうち、シワがとれなくなるに違いない。

【……アスランが、帰国した】
「はぁ……」

アスランが帰国して、何故私がいちいち呼ばれなくてはならないのか。同じ隊に所属しているといっても任務はバラバラだ。同期だからという理由でもないだろう。

「もしかして別の任務発生しました?」
【そうだ!! あのバカは、地球軍のシャトルで帰って来た!】
「はい?」

たった今、議長の口から信じられない言葉が聞こえたのは、気のせいだと思いたいのだけれど…事実は全くもって違うようだ。

(…アスラン…また、面倒くさい事してくれるな…)

「ジャスティスはどうしたんですか?」
【知るか!!】
「あ、そう…」

即答されてしまった。そんな思い切りよく即答されても、私だって返答に困るのだが。
私はあからさまにため息を吐いて、とりあえず召集に応じる事にした。

「じゃあ、今すぐ行きます」
【迎えをやった。すぐに来い!】


ぶちっ


そう勢いよく言いきってから一方的に通信が切られてしまった。私は一瞬、唖然とする。

「……迎え?」

そっと立ち上がり、窓の外をうかがうと、確かに外に迎えの車がある。周りにはグラサン集団。

「……え、用意早すぎない?」

自宅と本部、同じアプリリウス市にあるとはいえ、そこまで近くはないはずなのだ。通信する前に用意していたとしか思えない。

「まぁ、いいか……さっさといかないと、また怒鳴られるだろうし…」

(即座にかけつけた所で、怒鳴るだろうけど…)

そうして私は軍本部に向かうべく、用意された車に速攻で乗り込んだのだった。


NEXT→

(それにしても、グラサン集団は…今はちょっと複雑だなぁ…なんたって、鮮やかに射殺したのは、数日前だし…)
(お待ちしておりました、アルテミス・ヴァル・ジェニウス様)
(うぁっ、はい!)
(…何か?)
(いいえいいえ、何でもないんです。気にしないでください)


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