「ご苦労様でした。アスラン・ザラ」
「何だと!?」
リーダーと思わしき一人が、アスランに向かって声をかける。
(…やっぱり…議長はアスランを信用してなかったわけか…いや、信用しているからこそ、この部隊ってわけ?)アスランならば、ラクスにたどりつくという読みなのだろう。アスランの甘さを計算したこの布陣に、私は内心ザラ議長に貴方も充分甘い≠ニいうレッテルを貼って上げる事にした。
「流石婚約者ですな…助かりました。さっ、お退きください。国家反逆罪の逃亡犯です。やむを得ない場合は、射殺との命令も出ているのです」
(…やむを得ない? 問答無用で射殺体勢でしょ、これ)銃を構えたエリート部隊的なサングラス集団が、ラクスの周りを囲んでいる。これが射殺体勢でなくて、なんと言うのか。
「…それを庇うおつもりですか?」
グラサンリーダーは、呆れたように吐き捨てた。侮蔑も込められているに違いない。
「そんな……馬鹿なっ!!」
アスランは叫ぶけれど、これは絶対に議長の命令を最後まで聞いていない証拠だった。いや、聞いてはいたけれど、信じてはいない。という方が正しいかもしれない。
(アスラン……彼女に関わった物、全部デリートしてこいって命令、出てたでしょー)私は内心で、アスランの猪っぷりに呆れながらこっそりとため息を吐いた。と、同時にどこからかグラサン集団の一人が狙撃される。
その一瞬でアスランは銃を投げ捨て、自由になった手でラクスを持ち上げて物陰に隠れた。
「ちょっ、アスラン!?」
舞台に上がっていたグラサン集団の一部が、アスランとラクスに向けて発砲するのを見て、私はつい反射的にグラサンの一人を撃ち抜いてしまう。
「あー!! もぅ!!」
そして私も物陰に隠れて、グラサン対私の銃撃戦が始まった。
ちなみに、舞台に上がっていない他のグラサン部隊は、どこからか狙撃され続けている。
「アスラン! しっかり隠れててよ!」
「アルト…!」
もうこうなったら、ヤケだ。私が彼らに向かって発砲するという事は、私もラクスを庇ったという事で後々報告され、やっかいな事になる。
「目撃者は…一人として残すわけにはいかないね!」
「なっ!! 貴方もですか! アルテミス・ヴァル・ジェニウス!」
「なりゆきって事で!」
そして私は走って移動しながら立て続けに舞台のグラサン集団を撃ち抜いた。
「くっ!!」
応戦しながら、グラサンの一人が物陰に隠れる。
「隠れても、無駄!」
私は跳躍すると、ガレキの上に手をかけて登る。それから一気に飛び降りて、最後のグラサン男の首をめがけて足をおろした。
「ぐっ!!」
前へと倒れ込んだグラサンは、私に向かって銃口を向ける。
「しつこい!!」
再び私が銃を構えた瞬間、彼は横から狙撃されてついに息をする事はなくなった。
「!!」
「ラクス様…」
最後のグラサンを射殺したのは、私にも見覚えのある人。彼を最後に見たのは、地球の砂漠だった。
「…貴方は…ダコスタ副官!?」
「………久しぶりです」
「生きて……たんですか……!?」
私が驚きの声を上げると、ラクスはアスランの背後から移動していた。
「お知り合いでしたの?」
「…砂漠での戦闘に、私も参加してましたから」
「まぁ。バルトフェルド隊長のおかげで、皆様、無事に脱出したそうですのよ」
「えっ!!」
それは初耳だ。生きていたと言うのなら、何故彼らはザフトと連絡を取っていなかったのだろうか。
「その時から……クライン派……って奴ですか」
「…その通り」
ダコスタ副官は、私に向かって苦笑した。そして彼は銃をおろしてラクスを促している。
「もうよろしいでしょうか? ラクス様。我らも行かねば…」
彼が頷いた事で、クライン派である事に間違いはないようだった。ちらりとアスランを見ると、彼も意外そうな顔をして固まっている。
「アスラン…どうするの?」
「どう…って…」
私がアスランに問いかけた事で、ダコスタ副官に緊張が戻った。必要であれば、いつでも応戦する…といった感じだ。
「…ラクス・クラインに関しての任務は、変わってない。私はこの任務に関しては一度、命令を受けたんだけど…さっきソレが解除されてね」
「え…」
「この件はアスランに一任するってさ。議長が言ってたよ」
「一任…」
そう。だから私はラクスに向かって銃を向けようかどうしようか悩んでいたのだ。私の任務ではないから。
居所を掴めとお願いはされていたけれど、それは今ではないし。
「キミの判断によっては、私も…色々と対応しなきゃならないんだけど?」
そう言った後に、ちらりと私はラクスを見た。
すると彼女は苦笑しながら私をじっと見つめる。
「私は……例え、どんな事になっても、貴女とお友達でいたいと…思っていますわ」
そのラクスの言葉に、私はいたずらな笑みを浮かべてラクスを見た。
「本部を出た瞬間から、私は非番扱い。今は軍人じゃないから良いけど……もし、軍人としてキミに再び会ったら、次は攻撃しちゃうけど、いいの?」
「それでも、お友達で居てくださいませ」
「じゃあ、お友達継続だね!」
「そうですわね」
「……アルト…ラクス……」
私たちが手をとって微笑んでいると、アスランが複雑そうな表情で眺めていた。
「アスランって、苦労性な上に、悩むの好きでしょ」
「は?」
「もう、答えは出てるのに、あれこれ理由つけないと認められない?」
「答え…」
無駄に悩んでいるアスランに、私は確信めいた言葉を投げる。
「ラクスをグラサン集団から庇った。その行動は、どうして?」
「え…それは……彼女を…ラクスを…撃たせたくなくて…」
「うん。でも、キミはラクスを殺すよう任務を受けた。助けるのはおかしくない?」
「でも!! 俺は……!!」
彼はそう言って、黙ってしまった。もう答えが出たのに、まだ悩むつもりなのか。
「…その行動がキミの答え。別にそう難しくないでしょ。ラクスを死なせたくない。単純な理由なんだから」
「アルト……そんな簡単に…」
「すむすむ。だって、誰も見てないもの。死人にクチナシ」
私はさわやかに死体の山を指さすとアスランは、はぁっとため息を吐き出した。
「…君はどうするんだ」
「私は非番。軍人じゃない私はラクスの友達。ね?」
「はい」
私は再びラクスと視線を合わせてウィンクを投げかける。ラクスも満面の笑みを浮かべて答えてくれた。
「私はハッキリしてるから。公私混同しないタイプなの。…だから、今、非番じゃなかったらアスランがどう言おうが、どう行動しようが何が何でもラクスを本部に連行してるよ」
「…あらあら。私は運が良かったですわね」
「だねー」
「……そこは和む場所ですか?」
ダコスタ副官が頭を抱えてしまった。ちなみにアスランも似たようなポーズでため息をこぼしている。
「とりあえず今は報告なんてしない。何も見てない聞いてない、銃も発砲してない」
「あれだけ鮮やかにグラサンを撃ち抜いておいて、よく言うね君も」
沈んでいたダコスタ副官が、今度は半分笑いをこらえながら、思わずといった風に呟いた。
「死体は話せませんから、良いんですよ」
私がニッコリと微笑んでいる間に、アスランはようやく答えを出したようだった。
「わかった……俺は……君を止められない…ラクス」
「アスラン……ありがとうございます」
「ラクス、気をつけてね」
「はい。では、アスラン…ピンクちゃんをありがとうございました。アルトも、またお会いしましょうね」
「次は、軍人の顔だけどね」
多分、そうなると思う。私はなんとなくそう感じた。それには苦笑を返しながら、ラクスはアスランをチラリと見る。
「…キラは地球です。お話されたらいかがですか? お友達とも」
「…ラクス…」
そうしてピンクのお姫様は、ザフトの軍服を着たクライン派に囲まれて移動していった。
彼女がいなくなってからも、彼女が去っていった入口を呆けたように見続けるアスランに対して、私はおおげさなため息を吐きだす。
「ほら、アスラン! 行くよ」
「ああ……」
私たちは折り重なる死体の山を避けながら舞台から降りた。
そうして止めてあったエレカまで戻ると、今度はアスランが真っ先に運転席へと座る。
「え?」
「いや……その、帰りは俺が運転するよ」
「でも、アスランの腕…」
「大丈夫だ!」
やけに力説するアスランは、包帯をするするほどいてしまった。
「軍本部に行く。でも、その前にアルトを送るよ」
「え、いいよ。本部の方がここから近いし…私は…」
「いや! いいから!」
「?……わかった。じゃあ、お願い…」
額に汗まで浮かべて焦るような事でもないだろうに、アスランは頑なに運転席から退こうとしなかった。
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(もしかして、アスランって運転好きなの?)
(………そういう事でいいよ、もう)
(何でソコでため息吐くの??)