第7章 それぞれの道
53:「あ……安全……運転っ!!」
そうして私は、雨が降りしきる中、軍本部から自宅へ帰るためにエレカを走らせていた。
その途中の信号待ちで、見慣れた姿を発見する。

(アスラン? どこ行くんだろ?)

彼は自動エレカに一人で乗り込もうとしている所だった。片手で傘を持って、エレカのドアを開けようとしている。

(…片手で何しようとしてんだか…)

私はため息を吐くと、静かに車を反転させてアスランの隣につけた。

「…アスラン!」
「アルト?」

呼びかけると、アスランは振り返って不思議そうに私を見ていた。『こんな所に何で?』という顔をしている。

「もう、用事は済んだのか?」
「うん。どこ行くの? 送ってあげよっか?」
「え…いや……」

言いよどむアスランを見て、私はエレカから降りると助手席のドアを開ける。

「その腕じゃ、運転しづらいでしょ。私、今から帰るから別に任務ないし。明日は休暇もらったし。時間的に余裕あるからついで! ほら、乗った乗った!」

傘も差さずに出たからか、アスランは自分の傘を少し傾けて私を入れてくれた。

「でも…」
「それとも、私の運転じゃ乗れないっての?」

それでも悩む彼に、私は下からアスランを睨みつける。するとようやくアスランは了承した。

「いや……わかった。乗るよ」
「それでヨーシ」

苦笑するアスランは傘を私に預けてエレカに乗り込んだ。そして私も運転席へと戻って、持っていた傘を畳むと後部座席へと放り投げる。
私はアスランがちゃんとシートベルトをつけるのを見計らって声をかけた。

「さて、どちらに向かいますか? お客さん?」
「……ホワイトシンフォニーへ」
「ホワイトシンフォニー? ……コンサートホールなんかに、何の用?」

確か、今日はコンサートなど開かれていないはずだ。それに、アスランがコンサートに興味があるようには思えない。なんたって、ニコルのコンサート中はいつもバレないように寝ていたのだから。
私は不思議に思いながら、とりあえずエレカを始動させた。

「…ラクスに…」
「ん?」
「彼女が…そこに居るんじゃないかと思って…」
「え?」
「ハロハロ!! ラクス〜」
「えぇぇ!?」

アスランが呟いた言葉も衝撃だったけれど、さらに上を行く衝撃が私の耳に届く。

「…それ、ラクスの…」
「ハロだ。俺が贈った」
「…だよね。いつも一緒に居たもんね…置いていったの? ラクスが?」
「彼女の家に行くと、ハロが出てきたんだ」
「ふーん…」

私はちらりと横目でハロを確認すると、アスランの顔を見た。

(…あー…眉間にシワ寄せちゃって……まぁた何か考え事してるなぁ……まぁ、わかんないでもないけどさ)

「ねぇ、アスラン?」
「なんだ…?」
「……ラクスが本当に…そこに居たら、どうするの?」
「え…」
「まさか、ハロを届けに行くだけじゃないんでしょ?」
「まさか…」

(まさかって、だってハロを大事に抱えて悩んでるから聞いてるんでしょ…)

「…じゃあ、どうする? 反逆者として、議長の前に連れていく? それとも問答無用で暗殺?」
「…わからない…彼女が本当に…スパイを…」
「手引きしたのかって?」
「…………」

アスランは黙ってしまった。確かな映像を見せられてはいるけれど、信じたくないという気持ちの方が勝っているのだろう。
私はそこでひとつの提案をアスランにする。

「…ね、私も行っていい?」
「ホールに…か?」
「うん。私だって真意を確かめたいもの。ラクスがそこに居れば…だけど」
「…わかった…一緒に行こう。……ところで」
「ん?」

一緒に行動する許可をもらって、とりあえず急ごうとアクセルを踏み込んだ瞬間、アスランはチラリとこちらを見た。

「アルト…腕は?」
「治った」
「え!」

エクリプスの特殊量子実験を行う際に、高められた私の細胞が勝手に治癒しただけなんだけれど、流石にそれをアスランに話すのも躊躇われたので適当に理由を付ける。

「もともと、そこまで重傷じゃないの。医者から安静って言われてただけで…もう本当は治ってるから。……包帯が面倒くさくなって取っただけだよ」
「そう…か…」
「アスランだって、本当はもうそんなに痛まないんでしょ?」

前を向きながらそう問いかけると、アスランが頷く気配がした。

「ああ…俺もとりあえず安静と……言われてる」
「じゃあ、もうほとんど治ってるんじゃない?」
「…そうかもな…」

左手を見ながらアスランは苦笑した。私はその笑顔に疑問を感じながらも、とりあえずさらにアクセルを踏み込んでいく。

「アルト…!」
「なぁに? あ、下手に話すと舌かむから、黙ってて」
「あ……安全……運転っ!!」
「なにそれ、おいしい?」
「アルトー!!」

私はアスランの抗議を完全無視して、さらにアクセルを踏み込んでいった。


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(急発進、急ブレーキ、急カーブ…)
(あはは、アスラン早口言葉の練習? とりあえず舌かむよ?)
(舌をかませないように、運転しろよ! 免許停止になったらどうするんだ!)
(そんなヘマしないって)
(ヘマとか、ヘマじゃないとかっ!! って、うわああぁぁ)
(あはははっ☆きーもちー☆)
(勘弁してくれぇぇ!!)


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