第7章 それぞれの道
49:「いや…これは確定情報らしい」
私たちは地上のカーペンタリア基地から本国に戻って来た。地球からプラントまでは結構遠くて、長い間輸送機に揺られていたせいか腰が少々痛い。ついでに眠い。

「眠い…」
「今だとプラント時間では早朝だからな」

眠さに負けた私は輸送機でアスランの肩を借りながら眠っていたらしく、本国に着く少し前にアスランに起こされた。それから、未だ頭が覚醒しない私の頼りない歩調に合わせてアスランはゆっくりと歩いてくれる。

「むー…このまま本部に直行コース?」
「ああ、着任式の後に機体を受領して、任務につくと思うけど」
「……私、ザラ国防……じゃなかった。ザラ議長に呼ばれてるんだけど、着任式とどっちが優先なんだろう…」
「うーん…とりあえず、着任の挨拶の後にすれば良いんじゃないか? 多分、父も忙しいはずだから」

これからの行動を確認し合いながら、私たちは軍本部のエントランスに足を踏み入れた。
中は多くの人たちが囁き合っていて、なんだか騒がしい。普段の本部の様子とはだいぶ違った慌ただしさに、私たちは顔を見合わせた。

「…アスラン…これ、スピッド・ブレイクのせいかなぁ? なんか慌ただしくない?」
「さぁ…どうだろう……あ…!」

不思議に思って周りを見渡していると、アスランは誰かを見つけたようで一瞬驚いた顔をしながらも小走りにその人物に向かっていた。

「アスラン?」
「ユウキ隊長!」
「え?」

聞き慣れない人の名前を呼びながら、アスランはその人物の前で立ち止まった。
私は遅れながらもアスランの隣に並ぶ。

「アスラン・ザラ! どうしたんだ、こんな所で…」
「ご無沙汰しております」

(……アスランの知り合い?)

よく見ると、ユウキ隊長と呼ばれた人は黒服だった。とりあえず私たちよりも階級が上の軍人なのだから、失礼があってはならないだろう。一応、軍も縦社会なのだから。

「……君は?」

アスランと違って彼と面識のない私は、一瞬で判断してから問われた事に答えた。左手で失礼かとは思ったが、今は右手で敬礼できないので許してもらうことにする。

「ハッ! クルーゼ隊……違った。特務隊所属、アルテミス・ヴァル・ジェニウスです」
「そうか…私は、レイ・ユウキだ」

返礼をしてくれるユウキ隊長。それを見ていたアスランは、私に向かって彼を紹介してくれた。

「クルーゼ隊配属の少し前にお世話になった隊長なんだ」
「え?」

アスランはアカデミー卒業と同時に私たちと一緒にクルーゼ隊に配属されたと思っていたので、驚いた。

「あれ? 覚えてないか? 本格的な配属前に研修みたいなのがあっただろう?」

(あー……アレか。でも、アレは確か…)

「ソレ、主席のキミだけだよ。私たちは無かったもの」
「あれ?」
「…しっかりしているのに、どこか呆けている所は変わらないようだなアスラン」

私たちの会話を黙って聞いていたユウキ隊長は、苦笑しながらアスランの頭を撫でた。

「すみません……それより、この騒ぎは?」

そう指摘され、アスランは恥ずかしそうにしていたが、すぐに話題を切り替える。

「ああ……スピッド・ブレイクが失敗したらしい」
「えぇ!?」
「そんな!」

そしてユウキ隊長が私たちに教えてくれた事は、とてもじゃないが信じられないものだった。
私たちがカーペンタリアを発つ少し前に、クルーゼ隊含めてスピッド・ブレイク遂行のために彼らは準備を整えていたはずなのに。すでに失敗しているなど…

「詳しい事はまだわからんが……全滅との報告もある」
「ぜん…めつ…!?」

私はその言葉を聞いて、持っていた荷物を取り落としてしまう。

(…ぜんめつ……全滅って……兄様も!? イザークだって…!!)

私の目の前が真っ暗になった。思考回路が定まらず、全身がカタカタと震え出す。

「アルト…」
「たい…ちょう……いざ……」
「大丈夫か!?」

私のただならない状態に、ユウキ隊長も焦り出した。

「すみ…ません……私……」
「いや、僕が悪かった。全滅というのは確定ではないよ。生存者も居るらしいとの噂もあるし……今は情報が錯綜していて混乱してるんだ」
「では、クルーゼ隊も無事かも知れないという事ですね?」
「ああ、そうか。アスランはクルーゼ隊に配属だったな…」

震える私に代わって、アスランが話をしてくれる。その交わされる会話の内容で、私は少しだけ落ち着く事ができた。

「…すみません。取り乱しました」
「いや、無理もない。君もクルーゼ隊所属だったのだろう?」
「…はい」
「それならば安否を気にするのは当たり前だよ。…私はあまりうるさい方ではないから、安心してくれ」

ユウキ隊長が苦笑しながら口元に手を当てる。私はその仕草に少しだけ気が楽になった気がした。

「だがな…」
「どうしました?」

そこでユウキ隊長は一度言葉を区切って、辺りを見回す。そしてアスランの目をまっすぐ見ると、周りをはばかるようにして声を落とした。

「アスラン、君にはもう一つ悪いニュースがある。極秘開発されていた最新鋭のモビルスーツが一機、何者かに奪取された」
「!!」

(極秘開発……って……もしかして…)

それは今、私たちが受領しようとしていた機体の事に間違いない。極秘開発をしている機体はソレしかないのだから。

「それの手引きをしたのが…ラクス・クラインだと言う事で……今、国防委員会は大騒ぎなんだ…」
「そんな……まさか……ラクスが……そんな……!」
「アスラン…」

今度はアスランが手荷物を取り落とす番だった。私はそっと彼の背中に手を回す。

「…その情報も……不確かなんですか?」

驚愕に目を見開いて震えるアスランの代わりに、私がそっと隊長に確かめる。どうか、否定しないで欲しいと願いながら。

「いや…これは確定情報らしい」
「そんな!!」

私の願いはむなしく、ユウキ隊長はとても苦しそうにアスランを見ていた。

「君が心を痛めるような情報を与えてすまない。だが…早く知っておいた方がいいと思ったんだ」
「いえ………お心遣い、感謝します」
「いや…っと、すまない。呼ばれているようだから私はこれで失礼する。…アスラン、気を落とさないようにな」
「はい…」

そうアスランを気遣ってから、ユウキ隊長は立ち去った。敬礼してその背中を見送っていたアスランは、不意に荷物を持って歩き出す。

「ちょっ…アスラン、どこ行くの?」
「父に……いや、ザラ議長に会いに行く! 確かめないと…!」

(マジで!! いや、お父様なわけだし、会ってくれないとは言わないけど、ソレは……軍人としてどうなの?)

「…じゃあ、荷物貸して」
「え?」
「さっさと行って、間違いなのを確認して帰ってきなよ。特務隊には私が先に挨拶しにいく」
「……いや、一緒に行こう」
「え!?」

私はいきなりのアスランの申し出にとても驚いてしまった。

「いやいや、だって…」
「俺は、ラクスの事も聞きたいけどスピッド・ブレイクの状況も聞きたい。父のところなら最新の情報が集まるはずなんだ」

こんな時のアスランは、何を言っても仕方ない。変なところで頑固なのは、いったい誰に似たのだろうかと思いながら私はため息を吐いた。

「…はぁ…もう…わかったよ。とりあえず荷物邪魔だから置いてから行こう。……ダッシュでね」
「ああ」

そうして私たちは荷物をエントランスで預けると、足早に議長室へと向かった。


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(アスランってさ、お父様によく似てるって言われたことない?)
(俺が? いや、母似だと言われ続けてたけど…)
(いや、たぶん、外見じゃなくて…性格とか?)
(……どうだろう? 似てるのか?)
(…質問してんの、私なんだけど)


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