第7章 それぞれの道
48:「今度は俺が部下にしてやる!」
「アスラン、用意できた?」
「ああ……すまない、遅くなったか?」
「別に? 片腕使えないのは、お互い様だし。かかる時間は一緒だよ」

私はカーペンタリア本部から、本国へと渡る輸送機に乗り込むための準備を整えて、アスランの部屋まで来た。
一緒に機体を受領するから、出発も一緒だ。アスランの腕は私より重傷で、完全に折れているらしいので心配して来た…というのは建前で、正直言うとアスランを密かに監視しろと兄様から言われている。


『彼は少々問題が目立つ。何もなければ良いが、とりあえずアーティも同じ部隊の所属となる。私の手から離れるけれど、しっかりな』


兄様が言った言葉が、頭をぐるぐると周り、私は最近珍しくもないため息を吐きだした。

(また兄様と離れた……まぁ、これで任務が……私たちの目的が達成する事ができるなら……いいんだけど…)

最近の兄様は目に見えて急いでいる気がする。

(もう、……時間はそんなにない……か……?)

進行した兄様の体の異変を、昨日は間近で見て確認した。意外と早いその進行速度に、私は驚きを隠せなかったが兄様は何でもないと笑っていたのだが。

「アルト? 行くぞ」
「あ……うん」

いつの間にアスランが目の前に居たのか、顔を覗き込まれる。その視線から顔をとっさに背け、私はサクサク廊下を歩く。すると、廊下の途中でイザークが壁によりかかり、こちらをじっと見ていた。

「イザーク…」

彼はアスランをじっと見つめると、少しだけ足を前に踏み出して、私たちの進路を塞ぐ。

(ようやく動いたか。出発間際って……イザーク、遅いよ)

彼がアスランに言いたい事があったのは知っている。色々と聞きたい事もあったようだし、二人で一度話し合ってみたらどうかと勧めたのは私だ。このように出発前ではなく、昨日ぐらいでも時間はあったはずなのだが、イザークの性格上、改まっての話は恥ずかしかったのだろう。

「…先に行くねアスラン」

二人きりにしてあげようと思って私はアスランにそう告げる。彼も無言で頷いて私が歩き出したところに、

「待てジェニウス」
「へ?」

足を踏み出した瞬間、イザークが私を呼び止めた。

(……アスランに、個人的に話があるわけじゃないの?)

呼び止められた以上、仕方ないので私も一緒になって話を聞く事にする。
右隣にはアスラン。正面にはイザーク。
夕焼けに染まる廊下には、私たち三人しか居なかった。そしてイザークは、ぽつぽつと話し出した。

「…俺もすぐそっちへ行ってやる。…貴様らなどが特務隊とはな…」

(あー…素直じゃない……最後まで素直じゃないよイザーク)

ぷいっと顔を背けるイザークに、アスランは持っていた荷物を足下に置いて、右手を出す。

「ん……?」
「色々と……すまなかった……今までありがとう…」

その言葉に少しだけ悩んだイザークは、やっぱり静かにアスランの手を取って、握手をした。

(……ちょっ……!! 私、今、夢の中とか……? アスランとイザークが……いや、アスランは普通だろうけど……あのイザークが……!!!!)

二人がかわした握手に、とんでもないような光景を目撃した気分だ。いや、気分というより、とんでもない光景を目にしたと断言できるだろう。
二人の握手は一瞬だったけれど、その一瞬に色々な思いが詰まっている事を私は知っているので、内心ではものすごく感動していた。

(…ホント、よかった。……ニコル…ディアッカ…ラスティ…キミたちにも見せてあげたいよ)

この場に居ない同期に向かって心の中で呟く。アカデミーでの出来事が、昨日の事のように思い溢れてきた。
私が一人で感動していると、今度は私に向かってイザークは左手を差し出してくる。

「…?」

その手をしばし見つめていると、イザークは小さく舌打ちをした。

「貴様、鈍いにもほどがあるだろう」
「あ……」

右手はギプスで固定しているので、左手で荷物を持っているのだが、その荷物をイザークはひったくる。
それから強引に私の空いた左手をつかんで、私とも握手する形となった。

「!!」

その光景に、今度はアスランが驚いたような顔をしたが、すぐに微笑んで荷物を持って歩き出す。

(え!? ちょっ…行っちゃうのアスラン!! この状況、私にどうしろと!?)

私の内心の焦りなど放置され、アスランはスタスタと歩みを進めて行った。
イザークはアスランの背中をチラリと見ると、すぐにまた前を向いて少しだけ遠くなったアスランに聞こえるように声高に宣言する。

「……今度は俺が部下にしてやる! それまで、死ぬんじゃないぞ」
「……わかった」

アスランは少しだけ振り返ると、ニッコリと笑顔を作ってイザークを見た。
イザークはアスランの顔を見ないように話していたが、彼の言葉が終わったと思うと、またチラッと振り返って後ろ姿を見送る。

「…イザーク…」

アスランの姿が曲がり角を曲がって見えなくなると、私は未だ握られたままの手を見つめながらイザークの名前を小さく呼んだ。

「お前も、すぐに俺が部下にしてやる。見ていろ」
「いや、それはわかったんだけどさ……」
「何だ、文句でもあるのか」

(あるよ、すんごい!! 特に今の現状に対して!)

「いや、文句っていうか……私もそろそろ行かないと…いけないんだけど」

私はしどろもどろになりながらも、現状をイザークに控えめに告げてみるのだが。

「さっさと行け」

(いやいや、行きたいよ。行きたいけどさ! …あー…もう! どっちが鈍いんだよ、このおバカ!!)

もう面倒くさくなった私は、正直に今の気持ちを吐いてみた。

「……うん。だから……この手を離してもらえると助かるな。まさか軍港まで一緒に手を繋いでついて来るつもり?」
「!!!!」

私が思いきって現状を話すと、ベシッとはたかれて、勢いよく手を離される。

「何もそこまで勢いをつけなくても…」
「さっさと離せ馬鹿者!」
「いや、離してくれなかったのは、キミの方…」
「うるさい! …くっそ! 死んだら許さんぞ!」

イザークはそう言って、今度こそ完全に私に背を向ける。この行動は照れ隠しの証拠だ。
耳まで真っ赤に染めあがっているのは、夕陽だけのせいではないだろう。
私はイザークに気づかれないよう、こっそり笑うと、今度こそ荷物を持って歩き出した。

「あぁ、そうだ。イザーク」
「なんだ! まだ何かあるのか!」
「……今度、会った時はさ。アルトって…呼んでよね」
「!! ………お前が死んでなかったら、呼んでやる!」
「…うん。行ってきます!」

そうして私たちは、新たな戦地へとそれぞれ旅立っていった。


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(ねぇ、アスラン。置いていくなんてヒドくない?)
(いや、聞かれたら……その……)
(別に聞かれて恥ずかしい事話してなかったよ。次に会ったらアルトって呼んでねって約束しただけだもん)
(今頃…!?)
(何かおかしかった?)


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