第7章 それぞれの道
47:「失敗は許されない」
アスランをカーペンタリアの本部に連れ帰って来てから、三日が経った。
現在、医務室で検査入院中の彼は、本国でストライクを撃破した功績を讃えられたネビュラ勲章を受けるらしい。
同時に兄様も宇宙から降りて来ていて、今頃はアスランに転属の話でもしているに違いなかった。

(…アスランは、特務隊。…そして、私も特務隊……か)

正直、私の何が受けて特務隊に転属になるのか知らないけれど、恐らくそこには兄様が絡んでいる。

(新しい機体が完成したって言ってたしなぁ…)

私は一度、その機体を受領するために本国へ戻るようにと命令が出ていた。ちなみに、ザラ議長にも呼び出しを受けている。

(…正直、議長の呼び出しの方が憂鬱だわ…兄様とは離れちゃうし…)

クルーゼ隊に残る事になったのはイザークだけだ。彼だけはデュエルに乗って兄様とスピッド・ブレイクの任務に当たるらしい。本音を言うと、羨ましいこと、この上ない。

(さて、イザークはどこかな…? お、居た居た)

私はイザークを探してカーペンタリア本部の格納庫まで足を伸ばした。すると、修理されているデュエルを、ただボーッと眺める彼を発見する。
私は何となくイザークの背後まで忍び寄ると、奇襲をしかけた。

「ぐぁっ! 貴様……何をするんだ、いきなり!!」
「何って、呆けたそのだらしない顔を引き締まらせてあげたんでしょ?」
「はぁ!?」

イザークが私の首根っこをつかもうとするので、素早く身をかわして、彼の隣に並ぶ。

「貴様…!」
「聞いた? アスラン、転属だってさ」

そして何事も無かったかのように、修理されているデュエルを眺めた。
イザークはため息を吐いて、振り上げた手を降ろす。

「……そのようだな」
「栄転だよねー。何せ、あのストライクを討っちゃったわけだし? ついでに本国からネビュラ勲章もらえるんだってさ」
「……お前は何を報告しに来たんだ。嫌味か!」
「うん」
「はぁぁ?!」

そろそろイザークの導火線に火がつく。私はそれを見計らって、静かに言った。

「あぁ、私も転属だから。特務隊」
「何っ!? 本当か!?」
「うん。ねぇ、イザーク…私たちがいなくなったら、寂しい?」
「そんなもの、俺が知るか!」
「…だよね」

素直に彼が寂しいなどと口にするとは思えなかったが、やはり予想通りだった。

「私もアスランと一緒に本国に呼ばれてるから、戻るよ。新しい機体を受領しろってさ」
「なっ…!」
「ゼロはね、動かないんだって。あの時、ちょっとやり過ぎちゃったみたい。コントロールが大破してるし、なによりOSが修理不可能なまでに溶けちゃってねー…」

これは半分本当で、半分は嘘だ。OSが溶けているのは本当だが修理不可能というわけでもない。とても時間をかければ何とかなるらしい。

(まぁ、修理するより新しい機体を受領するのが目的だから、どうでも良いらしいけどね)

今度の機体は、奪取した機体のデータを私がまとめて進言したもの。そこに兄様とザラ議長が裏工作をして私専用のカスタム機体を作り上げたと聞いている。
その機体の名前が何だったか思い出そうとしていると、イザークがぽつりと呟いた。

「……自爆した機体の爆風をモロに受けて生きているアスランもアスランだが、戦艦のエンジン爆破を一部とはいえモロに受けた状態で、機体だけ損傷して生きているお前もお前だな」
「お褒めいただいて、ありがとう」
「褒めてなどいない! 嫌味だ!」

イザークの嫌味に笑顔を返すと、私はそっと自分の首にかかる青石を取り出した。

「……お守りのおかげかな?」
「!」
「なんてね」

すぐにそれを服の中にしまうと、私は格納庫から見える廊下に向かって走り出す。

「アスランはすぐにカーペンタリアから出るよ。私も一緒に!」
「だから…!」
「言いたい事は、出る前に言っちゃった方が、後悔しないと思うな? しばらく会えないしね!」
「……さっさと行ってしまえ! このバカ娘!」
「ふふふ……またね!」

そうして私は今度こそ格納庫から出て行く。アスランが居る医務室に向かう廊下の途中で、兄様とすれ違った。

「……私の部屋に」
「…はい」

すれ違った体を、すぐに切り替えして兄様に付いていく。ほどなくして、兄様の部屋に付くと、部屋をロックして兄様は仮面を取った。

「…!」

仮面を外した兄様の顔を見て、私は声を失う。

「……兄様……ちょっと進行した…?」
「……ああ……まだ大丈夫だ。薬もある」

額を押さえる兄様の傍らに立って、その手に優しく触れた。

「…作戦は…どうなってるの?」
「順調だ……真のオペレーション・スピッド・ブレイクは確実に進行しているよ。ザラ国防委員長殿も、ついに議長戦を制覇して、今や、ザラ議長殿だ」
「…そう…」

私は兄様にお茶を入れると、そっとテーブルに置く。

「それで、話は?」
「…アーティ、君の腕はいつ頃治る?」
「…医師の話では、折れたわけではないので少しだけ治りが遅いそうなの。多分、あと四・五日ぐらい?」
「…それでも早い方……か……流石だな」
「兄様…」

兄様の私を見る目が、少しだけ悔しそうに歪められた。私は、兄様のこの目が少し苦手だ。

「アスランと共に本国に帰り、新しい機体を受領しておいで。……注文通りに設計させてある」
「…アスランはジャスティスでしょう。フリーダムは誰が?」
「イザーク…と言いたいところだが、彼はどうしてもデュエルに乗り続けると言うのでね。ディアッカが見つかったのなら彼になるだろうが……今はまだ未定だ」
「……やっぱりまだ……見つからないんだ? ディアッカは…」
「ああ、こちらも手は尽くした。だが、色良い返事はまだ来ない」

そこで兄様は私が入れたお茶を飲む。それから傍らのディスプレイに三体の新しい機体を映し出した。

「おいで」
「……うん」

そっと兄様の椅子の側まで歩いて、私はディスプレイを覗き込む。

「これが、ジャスティス。そして、フリーダム。……そしてこれが……お前の新しい機体……エクリプスだ」
「エクリプス…」

(そうそう、確かそんな名前だったっけ)

なかなか思い出せなかった機体の名前に、私はようやくスッキリした。

正義、自由、浸食。なんとも皮肉が利いた機体名である。その性能も含めて。

「開発ベースは、地球軍の奪取した機体データから取り、エクリプスを基準に他の二体も作った。エクリプスより機体性能を幾分か抑えたそうだ。基本はNジャマーキャンセラーを搭載した、新しい核エネルギーで動く機体でね」

私は映し出された機体の性能を確認して、改めて驚異だと思った。

「エクリプスの最大の特徴は、ある量子がなければ真の機体ポテンシャルを引き出せないところだ」
「……私の……私が持つ、特殊量子……」
「そう…アーティ。間違いなくこの機体こそが、君専用の機体となるだろう。確実に、任務をこなすように」
「………アレは? もう建設してるの?」

私が言うアレとは、今後、地球にとっても驚異となるに間違いないであろう建造物。ザラ議長と兄様が静かに計画を練って着工しているものだ。
その存在を知るのは、軍人なら、私と兄様だけになる。

「順調にな。完成は近い。……戦争が終わるのも近いだろう」
「……敵である者全てを滅ぼして……そこに何が残ってるんだろうね?」
「何も残らんさ。……それが我らの望みなのだから」

そこまで言うと、兄様は私の腰をつかんで、自分の膝に座らせる。

「アーティ。もうすぐだ……もうすぐ、我らの悲願は達成する」
「兄様……」
「しっかりするんだよ。失敗は許されない」
「……はい……」

私は兄様に抱きあげられ頭を撫でつけられながら、催眠のように繰り返されるその言葉に、ただただ頷くだけだった。


NEXT→

(兄様に甘えるの、久しぶり)
(最近はずっと会えていなかったからな。寂しかったのかな?)
(……うん、もう少しだけでいいから…このままが良い)
(アーティは、いつまで経っても甘え癖が直らないね)
(それ、絶対、兄様のせい…)


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