第6章 優しい戦士
46:「泣くな、顔がブサイクになるぞ」
「くそっ……くそっ……こんな………」
「イザーク……それ以上暴れるなら、私の腕が全快してからにしてよ」
「なにぃ!?」

ブリッジを出てから私たちは、何となく待機室に居た。ここに居れば、何かあった時に対処しやすいせいでもある。
私はそこでぼんやりとイザークが八つ当たりの攻撃を繰り返すのを見ていた。ニコルの時と同様、彼は壁やソファーに向かって拳を繰り出している。
その手は少しだけ赤くなっていた。

「…苛立ちも、怒りもわかる。でも、ここにディアッカは居ないし。今の私はキミを止められない…この腕じゃね? キミの体が傷ついて、操縦管が握れなくなるのを止められないんだよ」
「俺がこの程度でMSに乗れないとでも言うつもりか!!」

イザークがギッと私を睨んでくるけれど、大して怖くない。イザークは表立って怒りを露わにしているけれど、私だってそれなりに頭に来ているのだ。無力な自分自身に…できる事なら今すぐ二人を捜しに行きたい衝動を必死に抑え込んでいるというのに。

「……それ以上に、自分の体と心を痛めつけるつもりなら、私はこの場でキミを……昏倒させるしか手はないな……腕が完全に折れるのと代償に」
「貴様、ふざけるなよ!? できるものならやってみせろ! そんな腕で何ができる!!」
「!!」

そう叫んだイザークの言葉で、ついに私の堪忍袋の尾が切れてしまった。今まで溜込んでいた怒りを思わずイザークにぶつけてしまう。

「分かれよ!!」
「ぐっ!!」

立ち上がって彼の首を左腕だけで締め付け、私より身長の高いイザークを壁に押し付ける。

「MIA認定はされていない! オーブが捜索するというならしてもらおうじゃない! こっちだって捜索部隊が動いている。向こうがヘタな行動とれば、筒抜けなんだ!!」
「ジェニウス…!」
「アスランが……ディアッカが……そう簡単に死ぬはずない! 私だって……私だって、捜しにいけるものならとっくの昔に飛び出してるよ!!」

そこまで言って、また涙が溢れ出してきた。
アスランとディアッカが行方不明。それでニコルに続き、二人まで死亡したなどと聞かされたら、私はどうしていいのかわからなくなる。

「…生きてるよ。絶対、二人は生きてる…私は、諦めない」
「俺もだ……俺だって二人が簡単に死ぬなど…!」
「じゃあ、もう八つ当たりはやめて!」
「……!!」
「二人が帰って来た時に、醜態さらすつもり?」

イザークの首を絞め上げていた手をはずして、私は赤くなった彼の手にそっと自分の手を重ねた。

「……わかった」

イザークもようやく大人しくなって、そっと私の目尻に手が伸びる。

「泣くな、顔がブサイクになるぞ」
「ホント、余計な一言多いよね、キミは!」

(素直に慰めるって事、知らないの!?)

私が追加でもう一言怒ってやろうとした時。


【イザーク・ジュール、アルテミス・ヴァル・ジェニウスの両名は至急ブリッジに集合。繰り返す…】


「艦内放送? なんで……?」
「……まさか……行くぞジェニウス!!」
「うん!」

二人してすぐさまブリッジに駆け込むと、アスランがオーブの飛行艇に保護されているという事を知らされた。
迎えの船を出すと言われて、慌てて一緒に乗り込む事にする。

「……アスラン……見つかったね……」
「ああ……ディアッカだって生きてるさ」
「うん…」

すぐにオーブの飛行艇が見えてきて、船の入口を大きく解放した。飛行艇から近づいてくる小さなボートには、アスランが左腕に包帯をしているが、目立った大きな傷はないことが見える。

「…アスラン…」

私とイザークは船の入口を挟んで向かい合わせにアスランを迎え入れた。

「おか……」
「貴様ぁっ!! どのツラ下げて戻ってきやがった!?」

(えぇぇぇぇぇ!? 今さっきまで、しおらしく心配してたのは、どこの誰だよ!?)

無事なアスランの顔を見るなり、イザークは身を乗り出して怒鳴りつけた。
その怒鳴り声を聞き流して、アスランは船に脚をかける。彼は手を取られて船に乗り込む直前に小さく呟いた。

「…ストライクは討ったさ…」

そう言って遠ざかる彼を少しだけ睨んでいたイザークだが、次の瞬間にはふっと口元を緩ませて微笑んだ。

「……やりやがったな、コノヤロー。無事で戻って何よりだが、心配かけさせやがって!」
「……何を言い出すんだ」

私が呟くと、イザークは微笑んでいた顔をすぐに引き締め、私をにらみつけてくる。

「何って……素直になれないイザークの気持ちを代弁をしてあげたの」
「余計なお世話だ!!」
「違った?」
「全然違うわ!!」

(いや、一言一句違わず、代弁できたはず)

「まぁ、そういう事にしておいてあげる」
「ジェニウス!!」
「アスラーン! ちょっと待ってー!」
「俺を置いていくなぁ!!」

アスランが戻ったのをきっかけに、ディアッカもすぐに見つかるのではないかと思っていた。
けれど、彼の消息は未だ不明のままだった。


END

(聞いてよアスラン、イザークがね…)
(もう黙れジェニウス! 泣かせるぞ!)
(えー? もう一生分は泣いたよ?)
(…お前ら、どこか余所で喧嘩してくれ…なんで俺を挟んで喧嘩するんだよ…)


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