第6章 優しい戦士
42:「わかっている、そんな事ぉ!!」
ニコルの機体が大破したその時、ようやく海から脱出したデュエルとバスターは私が居る地表に降り立ち、硬直していた。

アスランたちが居る地表と、私たちが居る地表の間には海が広がる。そう簡単には跳躍しても海に墜ちるだけだとわかってはいたけれど、動かずにはいられなかった。

【ニコル……?】
「ストライク───!!!!」
【バカな……くっそぉぉ! ストライクゥゥ!!】

イザークと私が動き出したのは、ほぼ同時。それからディアッカですら跳躍して全員でストライクに攻撃をあわせた。
火事場のバカ力とでも言おうか、私たちは全員アスランの居る地表に降り立ち、ストライクを追いつめていく。
まもなくして、足付きからの援護射撃で、またもや足止めをくらってしまった。

【逃がすかぁ!!】
【よせ、イザーク!】

ディアッカがイザークを止めるけれど、彼は止まらない。ビームを放つたび、足付きから主砲とミサイルを撃たれ、全員がその場に張り付く事になってしまった。

【冷静になれ! 今は下がるんだ!】

ディアッカが私とイザークをいさめると、アスランの近くまで跳躍して、応戦する。

【アスラン!】
【………!】

彼はようやく後退して、私たちは母艦へと引き上げて行った。
完璧なる、敗戦だった。





「くそぉ!! くそっくそっくそっくそぉ!!!!」

フィットルームでパイロットスーツから着替えている間、イザークはひたすらニコルのロッカーに向かって着替えもせずに当たり散らしていた。

(…気持ちはわかるけど…)

私が止めに入ろうとした瞬間、蹴りつけたニコルのロッカーが開いて、彼の赤服が現れた。その一瞬に目を奪われたイザークは、ここでようやくロッカーに当たり散らすのを止める。

(やっと止まったか…)

「イザーク…」

ディアッカがタイミングを見計らって声をかけると、我慢仕切れなくなったのか、イザークはようやく他の言葉を言う気になったらしい。

「何故、アイツが死ななければならない!? こんな所で……ええ!?」

(…そこでアスランに言っちゃうんだ…)

イザークは皆に向かって言っているつもりだろうけれど、視線は完全にアスランに向けられている。そんなアスランは我慢の限界に達したのか、イザークの胸ぐらをつかんでロッカーに押し当てた。

「言いたきゃ、言えばいいだろう!! 俺のせいだと……俺を助けようとしたせいで死んだと!!」
「アスラン!!」

イザークはアスランの手を振り払おうとして、手をつかんだけれど、何かを堪えるようにしてその手を離した。

(……イザークが……泣いてる……)

悔し涙だろうが、彼が泣いている場面など初めて見た。私はそのまま事のなりゆきを見守っていると、ディアッカが二人を引き離す。

「イザークも止めろ! ここでお前らがやりあったってしょうがないだろ!! 俺たちが撃たなきゃならないのは、ストライクだ!!」

体を張って止めてくれたディアッカに、イザークはものすごい視線をよこしながら叫び出した。

「わかっている、そんな事ぉ!!」

そしてイザークはアスランに向き直って尚も吠える。

「ミゲルもアイツにやられた!! 俺も傷をもらった!! 次は必ず……アイツを撃つ!!!!」
「おい、イザーク!!」

捨て台詞を残して、結局イザークは着替えずにそのまま走り去ってしまった。その後を慌ててディアッカが追いかける。

(…一人にしてたら、何を破壊するかわかんないもんね、とりあえずイザークはディアッカに任せるとして…)

問題は、コッチだ。
アスランは二人が出て行った方向を黙って見ていたが、不意にニコルのロッカーに手を伸ばして彼の服を取った。するとニコルが作曲したと思われる楽譜が、バラバラと散らばって落ちていく。
私は、ため息を吐きながらソレを一枚ずつ拾った。

「…みんな、悲しいし、悔しいもの。同じだよ…あの時は…」
「すまない…」

言葉の途中で、アスランが背を向ける。
イザークのように、感情を露わにして叫ぶことができたなら、どれだけ楽だろうか。
私やディアッカは、全員がそのように振る舞えば収拾がつかなくなる、とわかっているだけに実行できないでいた。
それはアスランも同じはずなのだが、精神的ショックはアスランの方が大きいに違いない。

(…責任なら、あの場にいた全員の責任だよ……)

近くにいながら、アスランを援護することも、ニコルを救出することもできなかった。

「…責めてくれた方が……なじってくれた方が、まだマシだ!! こんな……!!」

絞りだされるようにして出た声に、私はアスランへと視線を向けた。
ニコルの服を抱えて身体を丸める彼の目には、先ほどまで堪えていた涙がにじみ出ている。

「あの時……俺はキラを撃つ手を、一瞬だけ止めた……本気でアイツを………討てない…キラ……!」

(なん…だって……?!)

私はその発言に、眉を跳ね上げた。
せっかく集めたニコルの楽譜だけれど、私はついカッとなってソレをアスランに投げつけ、ついでに平手を一発、彼の頬にプレゼントしてしまった。

「ふざけないでよ……本気じゃなかった? じゃあ、手加減して自分が討たれるつもりだったの!?」
「!!」

私の行動に、アスランが涙をにじませた瞳で見上げてくる。

(…今まで、説得や捕獲を試みて、全部失敗してる。私も甘かったと思うけど…一番覚悟を決めてなきゃいけないキミは、まだ甘えていたわけなの!?)

そう思うと、つい私はアスランに向かって厳しい口調で怒りをぶつけてしまっていた。

「甘えるな!! 昔はそうでも、今、目の前に居るなら敵なんだ!! 何度も説得して、捕獲しようとして、失敗してる。これ以上はもう無理だって…辛いけど私はキミが本気で彼と向きあってると信じてたのに…!」
「……アルト……」
「ミゲル先輩も…オロール先輩も…ニコルも…キミはこれ以上何人犠牲にしたら、ヤマト少年を…いや、ストライクを討つ気になるの? 言葉だけでも守れないものがあるって…知ってる私たちが…」

早口で言う私の頬に、温かい水の筋が一つ、流れていく。
そのことに気づいた時、それ以上の言葉が私の口から出て行くことはなかった。

「……ごめん」

言い過ぎてしまった。
アスランだけの責任ではないとわかっているのに、感情の高ぶりが抑えられない。
私はこれ以上その場にとどまることができず、俯きながら小さな謝罪をつぶやき、部屋を走り去った。

(……ごめんなさい、兄様…)

このときの私の感情は、兄様の理想とかけ離れた場所にあると自覚しながら、思いを止めることができなかった。


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