第6章 優しい戦士
41:「うそ……嘘でしょ!?」
オーブが、スケジュールにない演習を始めたと知らされ、私たちはすぐに搭乗機で待機する事になった。

【まさか、本気で足付きが居るとは思えないけどねぇ】
【隊長殿のご命令だぞディアッカ?】
【貴方たち、いい加減にしたらどうですか!】

ディアッカとイザークの嫌味に、ニコルがいい加減腹に据えかねたのか、怒りだした。私は慌ててその通信に割り込む。

「まぁまぁ。確証はあるんだよね、実は」
【だから、ソレを説明しろと何度言ったら…】


ビー ビー


「あ」
【アラート……まさか!】

ニコルが呟くのと同時に、ブリッジより全体にアナウンスが入る。


【敵艦隊より離脱艦あり。艦特定…足付きです!】


「ほら来た」
【え!?】
【ヒュー♪】
【当たりましたね! アスラン!】

ニコルの嬉しそうな顔が通信越しに見える。彼だけは何の確証もないのに私たちを信じてくれたので、当たった事が嬉しいのだろう。
イザークは本気で驚いた顔をしていた。

(……うーん、これも貴重なのかな?)

私は苦笑しながらアスランを見る。

「さて、ザラ隊長。参りますか?」
【ああ。…出撃する! 今日こそ足付きを墜とすぞ!】
【【【「了解!」】】】

アスランが隊長らしく宣言すると、母艦のハッチが全面開放された。私たちは上空に打ち上げられたグゥルに飛び乗り足付きに向かっていく。
すると…

【煙幕ぅ!?】
【ちっ! 姑息な真似を…!】

一番初めに隊列を無視して足つきへ猛突進を繰り広げたイザークとディアッカの眼前に、足付きが張った煙幕が展開されてしまっていた。

「って、ちょっと二人とも!! 隊列乱さない!!」
【うるさぁーい!!】

私の注意など意に介さないイザークに、私は引きつる頬を隠しもせずにヒステリックな声を上げる。

「だからぁ……!!」
【アルト、もういい。邪魔にならなければ好きにさせてやれ】
「アスラン!?」

信じられない通信が飛んできて、私は思わずアスランを睨んでしまった。普段から隊列を乱すなと口すっぱく言う本人が何を言うのだろうか。

【ここまで確証もないのに、よく耐えた方だろ】
「……それは……」
【ストレスが溜まってるんだ。撃ち落とされなければいいさ】
「……寛容になったねぇ……それとも、余裕?」
【アルト?】
「…忘れないでよ、アスラン。遠慮は…しないから」
【…ああ】

そんな事を言っている間に、煙幕の中心から巨大なビームが放たれた。

「うっそ!」
【くっ!! 散開!】

アスランの指示で、前にいた二人も後ろの私たちも一気に散らばる。
すると、ビームの出力で煙幕が晴れ、足付きとストライクが見えた。

【くっ!! ストライクゥゥ!!】
【こっから先は行かせねぇよ!!】

イザークが突進し、ディアッカの砲撃が乱れ打つ。ストライクは足付きから跳躍し、ディアッカのグゥルを損傷させ、その勢いでディアッカ…バスターを蹴り落とした。その反動でイザークに向き直り、イザークのグゥルさえも撃ち落とす。

「……!! 驚異的だね……ホント!!」
【イザーク! ディアッカ! くそぉ!】

ストライクは推進力を弱めて、ゆるやかに空から落ちる。その足下には…

【足付きが!】
【避けろニコル、アルト!】

ストライクを囮にされて、私たちはまんまと足付きの射程内に入ってしまった。

「これじゃあ、的だね!」
【ちぃ!!】

再び足付きが弾幕を張り、その衝撃で前が見えなくなる。

【アイツ……空中で換装を!?】
「そういえば、カスタムに超自由がきく機体だっけね! 便利ですこと!」

ニコルが驚愕したような叫びをあげたが、次の瞬間にはストライクと対峙していた。
エールを装備したストライクは、さきほどよりも跳躍力が延びている。

「ニコル!! くっ…もう! ちょこまかウザイ!」
【アルト! 追うな、どうせまた来る!】

二機のスカイグラスパーは、今のうちに撃ち落としておこうかと思ったけれど、アスランがそれを止めた。

【うあぁぁぁ!】
「え!? ちょ、ニコル!!」

その間にニコルは片腕をストライクに切られ、なおかつグゥルを乗っ取られてしまった。蹴り落とされた彼は、為す術もなく海へと墜ちていく。
それに気を取られた私は、ストライクの接近に気づくのが遅れた。

【アルト!!】
「くぅ!!」

サーベルを振りあげて突進してくるストライクを、私はグゥルの接続を切り離して、上空に飛んだ。
グゥルは、ストライクの下を通過する。
空中で旋回した私は上下逆さまの状態で、背後からストライクを撃った。

「いい加減にしろよ…! 戦う理由も定まらないお子さまが!!」
【アルト!?】

ストライクはまともに私の攻撃を受けて体勢が揺らぐ。その状態を見逃さないアスランは、すぐさまストライクに接近して追加の攻撃をあびせていた。
だが、ストライクは簡単には墜ちない。

「何!?」

ヤマト少年が操るストライクは、機体をひねってゼロの足をつかむと、グゥルの出力を最大にふかせて放り投げてくれたのだ。

「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」
【アルトー!!】

おかげでストライクの下を通過させていたグゥルに再び着地する予定が狂わされ、海上に突き出た岩に落とされる事になる。
遠心力でものすごい重力がコックピットにかかり、私は舌をかまないように、ついで衝突時の衝撃に備える事しかできなかった。

「ぐっ!! げほっ!! アスラ……」

ようやく機体を起こしてアスランを探すと、彼もグゥルを失って海上に突き出た地表に落とされ、しかも足付きから猛攻撃を受けていた。

「アスラン!! くっそ!」

私は機体をすぐさま稼働させるも、岩にぶつかった衝撃で電気系統が一時麻痺している。
ついでに言うと、もうそろそろエネルギー切れだ。

「うあ!!」

足付きの攻撃は私の方にもやってきて、直撃はかろうじてないものの、周りをミサイルと主砲が過ぎ去っていく。

「!! アスラン!! 危ない!!」
【くっ!!】

私がアスランの方を見ると、上空から更にソードを装備したストライクが降りてきていた。狙いは、アスランの乗るイージス。
すぐさま彼は飛び退いたけれど、腕をソードがかする。
足付きからの攻撃は、ストライクがアスランの居る地表に降り立った時点で、慌てて停止されてしまった。

「後少し……よし!」

私が電気系統を再構築しなおしている間、イージスとストライクは、ビームを使わず、お互い殴り合いの喧嘩状態を繰り返している。

「アスラン! 深追いは止めて、一時待避を!」

悔しいけれど、ここまでくれば引くしかない。すでにイザークもディアッカも落とされ、グゥル無しでは地上での出撃もできない。ついでにニコルも機体を損傷しているし、アスランも窮地だ。

けれどアスランから通信の返答はない。彼から通信を無視されたのは初めてだった。

「アスラン!!」

(そこまで熱くなってるわけ!?)

戦局を見極めなければ、死に繋がる。私は珍しいアスランの反応に、ついキツい口調で通信をとばしていた。

「死にたいのか!!」
【アルト……?】
「引くのもまた、戦略だ!」

私は機体を完全に起こして、アスランの居る地表に向かおうとしたが、そこで威嚇射撃をスカイグラスパーから浴びせられ、安易に動けなくなる。
それと同時に、イージスはストライクに殴り倒され、ついにフェイズシフト装甲がダウンしてしまった。

「アスラン!!」
【アスラン! 下がって!!】
「ニコル!?」

ストライクがソードを振りかぶった瞬間、ミラージュコロイドを展開していたニコルが、片腕のないブリッツを操って駆け出していった。


狙いは、ストライク。


「無茶な!! 待って、ニコル!!」
【てやぁぁぁぁ!!】

振りかぶった状態から、ストライクは慌てて真横から突進してくるブリッツの…コックピットを狙ってソードを切り替えす。

「うそ……嘘でしょ!?」

ブリッツの胴体、主にコックピット付近からおびただしい火花が散って、機体が止まった。

「ニコル……ニコル!! 脱出して!!」

(今なら、まだ間に合うよね!? 大丈夫だよね!?)

私は必死でニコルに通信を繋ぎ呼びかけるけれど、映像は繋がらない。サウンドだけは通じているようで、聞こえるのはニコルの苦しそうな叫びだった。

【アスラン……アルト……逃げ……】
「ニコル!?」

雑音だらけの通信サウンドは、途切れ途切れにニコルの声を伝えてくる。
次の瞬間…


ドォォォン!!


【「ニコルゥ────!!!!!!」】

私とアスランの叫びは同時に放たれた。
ニコルが乗るブリッツはついに、その搭乗者を吐き出すことなく、搭乗者ごと爆発する。
その前に一瞬だけ映った通信の先、最期に見た彼の顔は、信じられないけれど、とてもニコルらしい…穏やかな微笑みを浮かべていた。


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