第6章 優しい戦士
40:「…何も持ってないんだけど?」
オーブに潜入した後、母艦に帰ってきてから二日が経った。
私たちはカーペンタリアから補給艦を出してもらい、しっかり母艦を整備した後、オーブからアラスカへ向かうための航路の途中で網を張っている最中だ。

この作戦を決行するまでに、色々と悶着があったのは言うまでもない。


それは二日前……

「足付きはオーブに居る。間違いない……出てくれば北上するはずだ。…ここで網を張る」
「あぁ? おい、ちょっと待てよ! 何を根拠に言ってる話だ、そりゃ」

母艦のブリーフィングルームでの会議中。地図を広げてアスランはある一点を指さし、おもむろに宣言した。
当然、イザークは根拠も見当たらないアスランの主張に異議を唱える。

「一度カーペンタリアに戻って、情報を洗い直した方がいいのではありませんか? ……確証が…ないのでしたら」

普段はアスランの言う事に全面賛成するニコルまでもが、アスランに意見するのは珍しい。それくらいアスランの主張は唐突で、突飛もない事なのだ。
普段なら私もこの意義に賛成を申し立てるところだが…

「…足付きは、オーブに居るよ」
「アルト!?」
「…ジェニウス…貴様まで何を…」

ニコルやイザークが驚いて私を見る。

「アルト、お前、アスランをかばう事なんかないぜ?」

ディアッカも私を同情するような目で見てくるが、私は特にアスランをかばっているわけではなかった。
皆には話せない、アスランと私だけが知る事実に基づく確証を話しているだけ。

「…別にアスランをかばってるわけじゃない。足付きはオーブに居る……ただ、それだけだよ」
「だから! それが何故かと聞いているんだろう!」

激昂するイザークに、アスランは少し大きめの声を出してそれを遮った。

「とにかく、俺たちはここで網を張る。カーペンタリアから補給艦を出してもらって、足付きが出てくるまで待機だ。いつでも出られるようにしておくようにな」

そう言って珍しくアスランが先に部屋を出た。

「…そういう事。機体も整備しておいた方がいいよ」

そして私もアスランに続いて部屋を出る。
これ以上、三人と話していると、ボロが出そうで困るからだ。

「はぁ……他にどう言えってのよ…」
「アルト」

部屋を出ると、アスランに呼ばれた。

「少し、話がある」

私は無言で頷くと、アスランの部屋。つまりはこの母艦の隊長室へと足を向けた。
アスランの部屋は隊長室以外にもう一つあるが、誰にも聞かれないようにするには、ここが一番だった。
部屋をロックして、私たちは向かい合う。

「…その…ありがとう…イザークたちに…話さないでいてくれて」
「…約束だったじゃない」
「…守ってくれると思ってなかったんだ。こんな状況になっているのに…」

アスランはそう言うと少しだけ眉を寄せて、苦しそうな表情になる。

(…こんな状況だから、話せないんでしょ)

私は内心でそう突っ込みながら、言葉では違うことを話題に出した。

「それにしても驚いたよ。…まさかあんな所でヤマト少年に会っちゃうなんてさ」
「トリィの声が…聞こえて、まさかと思った…俺だって、あそこでキラに会うなんて思ってなかったんだ」
「…まぁ、そのおかげで足付きがオーブにいる確証は得られたけど」

その事をイザークたちに話すとなると、とても面倒くさいことになる、というのは確定だった。
私は思わず額に手を当てて、壁に背を預ける。

「はぁ……さっさと大天使様が現れないと、イザークたちがキレちゃうね」
「……すまない……君にばかり迷惑を……」

アスランは苦笑いを浮かべながら、それでも自分が決定したことを覆すつもりはないようだった。その決意を感じ取った私は、もはや諦めるしかないと心を決める。

「もぉ……キミ、一体何個私にケーキを買ってくるつもり? イザークにだってダイエットしろって言われたばっかりなんだけど!」
「え?」
「まぁ、食べた分は消費してやるけどね」

アスランは一瞬返答に迷っていたが、すごく真剣な顔をして一言だけ言った。

「君は太ってないだろう? 確かに、女の子らしいとは思うけど…」
「ちょっ、視線がいやらしいよ!? このセクハラ!」
「えぇぇ!?」
「なーんてね! とりあえず、一度にそんな大量のケーキは消費できないから。そうだな、今度買い物に付き合ってくれたら良いよ! 荷物持ちとして!」
「アルト……君はたまに心臓に悪い発言をするな」
「いつもの事でしょ」

『とりあえず、忘れないでよね!』そう言い残して私は隊長室を後にした。


そんなやり取りをしたのが懐かしく思ってしまうぐらいに、母艦での待機はヒマだった。

「あー……体がなまる!!」

私は部屋でゴロゴロしていたのを諦めて、外に出る事にする。

(もぉ、いいや。イザークたちに会って、理由を問い詰められても違う話題にすり替えてやろう!)

いい加減、部屋にこもるのも飽きたのだ。だいたい、私は部屋でこもってウジウジするほど内向的な性格でもないので。
そうして母艦の甲板に上がると、アスランとニコルの話し声が聞こえてきた。
声をかけようとした私は、とっさに身を隠してしまう。

「…戦わなきゃいけないなぁ…僕も……って思ったんです。ユニウス・セブンのニュースを見て…。アスランは?」
「ニコルと同じだよ…」

(あ、軍に志願した理由を聞いてたんだ? ……なんか、出て行きにくいなぁ…)

「あ…」

込み入った話に気後れしていた私の傍に、カモメが降り立つ。

「ちょっと……!」

じゃれてくるカモメに、どう対処しようか迷っていると背後からクスクスと笑い声が聞こえてきた。

「懐かれてますね、アルト」
「…ニコル、アスラン!」
「何か食べ物でも持っていると勘違いされたんじゃないか?」

アスランまでクスクスと笑いながら近寄ってくる。

「食べ物って……何も持ってないんだけど?」

見つからないようつとめていたが、結局は見つかってしまった。私は諦めてカモメを肩に乗せてやると、すりすりと私の髪に体をよせて、カモメはじゃれてくる。そして不意に飛び立って空を一度旋回すると、遠くへと飛び去って行った。

「なんだったの…」
「女の子は良い匂いがしますから。アルトの匂いに引かれてやってきた雄カモメってとこですか?」
「まさかぁ…?」

そんな好かれ方はあまり嬉しくない。

「ふふふ…そうだ、アルト!」
「なぁに?」
「あっちで、魚の群が飛び跳ねてましたよ。多分、飛び魚ってヤツです。見に行きませんか?」
「へぇー、初めて見るかも」
「ニコルはよっぽど見たかったんだな。すまない、俺が…」

アスランはそこで、少しだけ苦笑してニコルの頭を撫でた。ニコルもはにかんだ笑顔を見せて、アスランと私の手を取る。

「さぁ、みんなで行きましょう!」
「わかったわかった。はしゃぎ過ぎだぞニコル」
「いいじゃない? ほら、走るよアスラン!」
「アルト…!」

私もアスランの手を取って走り出すから、三人で奇妙な体勢になって進んでいく。
そうして私たちは賑やかに、束の間の休息を楽しんだのだった。


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(すごいですね! 本当に羽が生えているみたいです!)
(ホントに飛ぶんだ…すごいなー)
(ここまで大量の群はプラントでも中々見れるものじゃないな)
(うん、なんか得した気分?)
(そうですね!)


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